最新記事

イスラム過激派

フィリピン南部で医師誘拐 軍との戦闘で負傷者がいるイスラム系テロ組織の犯行か

2020年2月7日(金)16時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

インドネシア人漁民5人も誘拐被害

アブ・サヤフはフィリピン軍や警察による掃討作戦などで構成員や資金の不足に追い込まれているとみられ、近年は身代金目的の誘拐ビジネスの手を染めている。

1月16日にはマレーシア領タンビサン島沖の海域で操業していたインドネシア船籍の漁船が、正体不明の武装した6人組が乗った小型船舶に襲撃され、インドネシア人漁民8人がフィリピン領内に連れ去られる事件(3人は翌日漁船とともに解放された)も起きた。

この事件もアブ・サヤフかその分派による「誘拐事件」の可能性が高いとみてフィリピン治安当局がインドネシア漁民5人の捜索に乗り出している(フィリピン、資金難のイスラム過激派が「誘拐ビジネス」参照)。

1月18・19日にタウイタウイ州で起きたアブ・サヤフと軍による銃撃戦も「インドネシア人漁民とみられる5人が武装した男たちと移動していた」との情報から治安部隊が現場に出動して戦闘となったとされている。

ミンダナオ島マラウィ市を武装占拠も

アブ・サヤフはフィリピン国内で活動するイスラム教系過激組織だったが、中東のテロ組織「イスラム国(IS)」との密接な関係から米政府やフィリピン政府からは「テロ組織」の指定を受けている。

2017年5月には他の反政府組織、テロ組織なども加わって南部ミンダナオ島の南ラナオ州マラウィ市を武装占拠する事件を起こしている。この事件の首謀者とされるのがアブ・サヤフの指導者イスニロン・ハピロン容疑者で、軍によるマラウィ市の解放作戦で死亡が確認されている。

同年10月のマラウィ市解放以後アブ・サヤフのメンバーはマニラ首都圏のある北部ルソン島やスールー諸島の島々に分散潜伏したり、さらに海路でインドネシアやマレーシアに逃走したりしてテロの機会を狙っているとされる。

2019年1月27日にはスールー州ホロ市内のキリスト教会で自爆テロ事件が発生し、19人以上が犠牲となっている。自爆犯はインドネシア人男女だが、アブ・サヤフのメンバーだったとされ、同組織が依然としてテロ活動を続けていることを内外に示した。

フィリピン治安当局では1月16日に誘拐されたインドネシア人漁民5人に加えてモレノ医師の行方に関しても鋭意捜索中で、アブ・サヤフ壊滅も視野に入れて攻勢を強めようとしている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



20200211issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月11日号(2月4日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集。歌人・タレント/そば職人/DJ/デザイナー/鉄道マニア......。日本のカルチャーに惚れ込んだ韓国人たちの知られざる物語から、日本と韓国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中