隠れ家に逃走手段など 香港デモの若者たちを支える市民の輪
デモ長期化、家族内の対立も
スンさんはある日、彼女の抗議参加を知った母親に家から叩き出されたという。
「何も持たず、靴さえ履かずに出てきた」とスンさんは言う。彼女の他にも、抗議への参加をめぐって親とけんかになり、家を出てきた、あるいは追い出された若者は多い。
「絶望感を味わった。どうすればいいのか分からず、ただ、それでも抗議には行く必要があると分かっていた」と彼女は言う。
抗議が何カ月も続くなかで、一部の家庭では深い断絶が生じている。子どもが逮捕される、あるいは今後のキャリアに傷がつくことを心配する親が、デモには参加するなと警告するからだ。
抗議に参加する若者たちは、最近は夕食の時間が怖いという。夕食は香港の家庭生活における重要な柱だが、デモをめぐる口論になってしまうのが当たり前になった。
混乱をめぐるストレスやトラウマは、医療・福祉サービスでは手に負えないメンタルヘルス上の問題を生み出している。抗議に関連する自殺も数件起きており、この夏、ラム長官は、「香港の社会に深く根ざしている根本的な問題」を指摘した。
ティーン世代支援のNPOで働く45歳のナムさんは、200人以上の若者と日常的に接している。その中心は労働者階級の抗議参加者で、親に家を追い出される、仕送りを止められる、学費の支払いを拒否されるといった境遇にある。
ナムさんがこうした問題に対する注意喚起のため、若者たちのエピソードをフェイスブックに投稿しはじめると、すぐさま大きな反響を呼んだ。ナムさんによれば、投稿を開始してから、支援したいと希望する人々から1万件以上のメッセージを受け取っているという。
「支援はすべて私のおかげだと思っている若者もいるが、私の背後には多くの人々がいる、と話すようにしている。すると、彼らは泣き出してしまう」とナムさんは言う。「必要不可欠なニーズを満たすというだけでなく、見知らぬ人からの愛と気遣いがありがたいのだ」。