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コロンビア大学特別講義

「慰安婦」はいかに共通の記憶になったか、各国学生は何を知っているか

2019年8月6日(火)17時40分
キャロル・グラック(米コロンビア大学教授)

グラック教授 あなたは韓国人ですか。

クリス そうです。

グラック教授 あなたのお母さんが、タトゥーの話を教えたのですね。

クリス はい。そのほかにも、コロンビア大学で韓国の女性とジェンダーについての講義を履修していたとき、1990年代末から2001年頃に作られたドキュメンタリー映画を見ました。それ以前にも、中学校のときに発声の先生が慰安婦についてのオペラの脚本を作っていました。

グラック教授 中学校はどこでしたか。

クリス メリーランド州ボルティモアです。

グラック教授 あなたのお母さんや発声の先生は、どこで慰安婦についての情報を得ていたのでしょう。

クリス 母は梨花女子大学校に通っていて(韓国初の女子大として名を馳せる名門大学)、発声の先生は韓国系アメリカ人でした。それなので......。

グラック教授 ああ、その答えで分かります。

一同 (笑)

グラック教授 その考えはどこからきたのかについて、理解しようとすることが必要ですからね。アメリカの中学校や発声の先生は慰安婦について教えませんが、梨花女子大学校に通っていたとか、韓国系アメリカ人、というので説明は成り立つでしょう。では今度はもっと個人的な質問をしてみましょう。あなたは、慰安婦についてどう思いますか。知っていることではなく、慰安婦についての皆さんの見解を教えてください。

韓国から見た「慰安婦問題」

ヒロミ(仮名) 私の意見では、それは事実――実際に起きたことだと思います。そして、それに対して日本人は謝罪をしました。ですが、韓国政府はこの問題を政治の道具として利用している。韓国政府が何をしたいのかは分かりませんが、この問題を持ち出して、何かの交渉に使おうとしていると思います。彼らはこの問題を政治の道具に使っている――これが私の見方です。

グラック教授 ヒロミの慰安婦についての見方は、この問題は政治的に利用されているということですね。

(ジヒョンが手を挙げる)

グラック教授 はい、どうぞ。

ジヒョン 一般的な見方と、私個人の意見と、二つあります。韓国人が一般的に思うこととして、韓国人が大前提として求めているのは誠意ある謝罪です。ですが、彼らが本音の部分で最も求めているのは、一貫性です。

グラック教授 一貫性というのは、何についてですか。

ジヒョン メッセージや態度です。

グラック教授 誰のメッセージや態度ですか。

クリス 日本人......。

ジヒョン 韓国人が日本人の謝罪を謝罪として受け入れない決定的な理由は、謝罪があった直後に、日本政府の誰かが違うことを言うからなんです。

グラック教授 つまり、日本人の態度に一貫性がないと言いたいのですね。

(ジヒョンがヒロミとコウヘイのほうに向き直って話し続ける)

ジヒョン 一貫性がないことが、韓国人をとても混乱させているのです。

ヒロミ 政府の役人も一貫性がないことを言っているのでしょうか。

ジヒョン 首相が言うこともあります。河野談話についても一貫性がありません。日本が慰安婦に補償したと言うのであれば、慰安婦問題が歴史的事実であると認める必要があります。ですが、多くの政治家がそれとは反対のことを言っています。

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