最新記事

コロンビア大学特別講義

「慰安婦」はいかに共通の記憶になったか、各国学生は何を知っているか

2019年8月6日(火)17時40分
キャロル・グラック(米コロンビア大学教授)

ニューズウィーク日本版で特集として掲載した際の誌面(2018年3月27日号「コロンビア大学特別講義:『慰安婦』の記憶」特集より) Newsweek Japan

<韓国、アメリカ、日本......米コロンビア大学の学生たちが一人ひとりの「戦争の記憶」を語る。私たちの知らなかった「慰安婦問題の背景」を、キャロル・グラック教授が学生たちとの対話を通してあぶり出した>

対話式の特別講義に、米コロンビア大学の学生11~14人が参加した。育った場所が日本、韓国、中国、インドネシア、カナダ、アメリカ各地と国際性に富んだ彼らが、一人ひとりの視点から「戦争の記憶」を語る。そこで浮かび上がるのは、各国それぞれ違う、戦争の記憶の「作られ方」だ。

日本近現代史を専門とするコロンビア大学のキャロル・グラック教授(歴史学)。新著『戦争の記憶 コロンビア大学特別講義―学生との対話―』(講談社現代新書)には、グラック教授が多様な学生たちと「戦争の記憶」について対話をした全4回の講義と、書きおろしコラムが収録されている。

本書の元となったのはニューズウィーク日本版の企画で、学生たちとの対話は2017年11月から2018年2月にかけ、ニューヨークの同大学にて行われた。本誌では「戦争の物語」「戦争の記憶」「『慰安婦』の記憶」そして「歴史への責任」と、全4回の特集として掲載し、大きな反響を呼んだ。
gluckbook190806ch3-cover_.jpg
ここでは3回目の講義、「慰安婦の記憶」を、『戦争の記憶 コロンビア大学特別講義―学生との対話―』から3回にわたって全文掲載する(この記事は第1回)。

長く語られなかった慰安婦問題が、90年代にアジアで噴出したのはなぜなのか。グラック教授が学生たちとの対話を通してあぶり出す、私たちの知らなかった「慰安婦問題の背景」とは――。

※第2回はこちら:韓国政府が無視していた慰安婦問題を顕在化させたのは「記憶の活動家」たち
※第3回はこちら:韓国と日本で「慰安婦問題」への政府の対応が変化していった理由

◇ ◇ ◇

慰安婦問題が共通の記憶になるまで

グラック教授 前回は「記憶の作用」についてお話ししました。通常はあまり変わることのないある国の「戦争の記憶」が変化するとき、その変化をどのように理解したらよいのかについて考えましたね。「記憶の領域」や「記憶が変わる方向性」「政治の文脈」という視点から、「共通の記憶」がどのようにつくられて伝達されていくのか、どのように変化するのかについて議論しました。

3回目となる今日は、「共通の記憶」について「慰安婦」をケーススタディーとしながら、さらに考察してみようと思います。現在、慰安婦について知らない人は少ないかもしれませんが、以前からそうであったかというと違います。つまり、本日お話しするのは、「慰安婦が共通の記憶に取り込まれるプロセス」についてです。

まずはこの質問から始めたいと思います。慰安婦について初めて耳にしたのはいつでしたか。

トム 2014年頃、大学の学部時代に日本史の講義で初めて聞いたと思います。

グラック教授 その講義のテーマは、第二次世界大戦に関してでしたか。

トム 1600年から第二次世界大戦の終わりまでという幅広い内容でした。

グラック教授 2014年でしたら、現代日本史の講義で慰安婦の話が出てくる可能性は十分にありますね。この頃までには、慰安婦の問題は共通の記憶としてたびたび取り上げられていたからです。それより25年前に大学に通っていたとしたら、慰安婦については習わなかったでしょう。ほかには?

ジヒョン 1990年代半ばだったと記憶しています。名前は覚えていませんが週刊誌で読んだと思います。私は韓国出身なのですが、1994年にインドネシアに移住しました。インドネシアで、購読していた韓国の雑誌で読んだような気がします。

グラック教授 そのことについて誰かと話をしましたか。それとも、自分で読んだだけですか。

ジヒョン 自分で読んだだけです。インドネシアでは慰安婦について特に一緒に話す人はいなかったので......。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中