最新記事

コロンビア大学特別講義

「慰安婦」はいかに共通の記憶になったか、各国学生は何を知っているか

2019年8月6日(火)17時40分
キャロル・グラック(米コロンビア大学教授)

グラック教授 分かりました。ほかには?

ニック 大学の学部時代に日本史と中国史のコースを履修していましたが、そのときには慰安婦については習いませんでした。ただ、家族と一緒に2000年初頭に日本に移住して、ニュースの中で教科書問題について聞いた覚えがあります。この頃には、慰安婦よりも先に『ザ・レイプ・オブ・南京』(1997年、中国系アメリカ人作家アイリス・チャンによる南京事件に関する著作)や教科書問題のほうがメディアで論争を呼んでいたと思います。慰安婦問題は、それらに付随する形で出てきたような印象です。

グラック教授 2000年初頭に、メディアを通じて知ったのですね。アイリス・チャンの著作は1997年に発売されて、既に論争を呼んでいました。では他の人。慰安婦については、初めて聞いたのはいつでしたか。

ダイスケ いい答えではないかもしれませんが、いつどこでだったか覚えていません。

グラック教授 なるほど。ずっと前から知っていたということでしょうか。いつ聞いたのかを覚えていないということは、覚えていないほど前から知っていたという可能性もありますね。高校を卒業したのはいつですか。

ダイスケ 2008年です。

慰安婦の「歴史」について知っていること

グラック教授 ありがとうございます。それぞれの答えから、皆さんが慰安婦について学校やメディアなどさまざまな文脈の中で耳にしてきたということが分かりました。では、慰安婦について皆さんが知っていることとは何ですか。これは「事実」に関する質問です。

クリス 慰安婦というのは朝鮮人女性に限った話ではなく、中国人女性もいた、ということ。慰安婦問題が政治化された後に、議論したり報道したり被害者を支援することに対して韓国政府が抑圧し、そのことが韓国における共通の記憶の形成に直接的な影響を及ぼしたということ。またそれが、何年も後になって被害者たちが証言する上でも影響したということです。

グラック教授 分かりました。ほかにはどうでしょうか。いま皆さんに投げ掛けているのは、「歴史」についての質問です。

スペンサー アジアのいろいろな場所に、日本軍のためのいわゆる「慰安所」というものが存在していたということです。強制性を伴う場合が多かったと......。

グラック教授 なるほど。ほかに、事実について知っている人?

トニー 私が知っているのは、慰安婦だった人たち自身はずいぶん後になるまで、それについて語ることができなかったということです。

クリス 長い時間がかかったということですよね。

ジヒョン 私が読んだ話では、1990年代初めの金泳三政権になって初めて声を上げ始めたと。

グラック教授 金泳三政権の少し前(1991年、盧泰愚政権の時代)でしたが、慰安婦を共通の記憶に盛り込もうとしたのは確かに1990年代初めでした。なぜこのときだったのかは後で話しましょう。ほかに知っている事実について話したい人はいませんか。

クリス タトゥーを「烙印」と見るのは、日本人男性が慰安婦の体にタトゥーを入れたからだと。私はいつもそのように聞かされていました。

グラック教授 誰があなたにそう言ったのですか。

クリス 母です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ウクライナ和平案の感謝祭前の合意に圧力 欧州は

ビジネス

FRB、近い将来の利下げなお可能 政策「やや引き締

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中