最新記事

百田尚樹現象

【百田尚樹現象】「ごく普通の人」がキーワードになる理由――特集記事の筆者が批判に反論する

2019年6月27日(木)17時00分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

5月30日付朝日新聞朝刊に掲載された津田大介氏執筆の「論壇時評」に訂正を申し入れた Newsweek Japan

<大反響を呼んだ特集「百田尚樹現象」で、筆者の石戸諭氏は百田氏を「ごく普通の人」と位置付けたのか。ジャーナリスト・津田大介氏執筆の朝日新聞「論壇時評」に、石戸氏が訂正を申し入れた理由と、「ごく普通」に込めた意味>

20190604cover-200.jpg

「すべてのことが終わり、語られた後では、『理解』という唯一の言葉が、われわれの研究の探照灯なのである」――。

クリストファー・R・ブラウニングの歴史書『増補 普通の人びと――ホロコーストと第101警察予備大隊』(ちくま学芸文庫、2019年。原著初版は1992年)のなかで印象的に引用された、歴史家マルク・ブロックの言葉です。

5月28日に発売したニューズウィーク日本版で私が取材、執筆を担当した「百田尚樹現象」に多くの反響が寄せられ、およそ考えられない量の感想をいただきました。多くの賞賛ととともに、少なくない批判をいただきました。

ある著名なジャーナリストは「百田尚樹を取り上げるべきではないので、読まない」と言いきり、ツイッター上では「分析が甘い」「批判が足りない」「取り込まれている」といった声が上がっています。

私に直接、そうした批判を言ってくる人もいました。その度に私は、特集のスタンスは「批判」のための批判をするのではなく、現象そのものを理解するために「研究が必要だ」と話してきました。それはなぜか。一連の取材、執筆を終えてから読んだブラウニングの本の中に、この特集の趣旨と共鳴する一節があります。

「加害者を理解しようとする歴史叙述では、彼らを悪魔扱いすることを拒む必要がある。大虐殺や国外追放を実行した大隊の警察官たちは、それを拒否するか巧みに回避した少数の同僚と同様、あくまで人間であった」

ブラウニングは狂信的な反ユダヤ主義者ではない「普通の人びと」が、虐殺に加担していく様子をファクトを元に淡々と記述します。そこで貫かれる姿勢は2点に集約できます。第一に「悪魔扱い」しないことであり、第二に「説明は弁明ではないし、理解は許しではない」ということです。理解するということは、例えば彼らの全ての発言、行為を許容し、批判をしないということではありません。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米Wファーゴ、第3四半期利益は予想上回る 引当金減

ワールド

独首相、ウクライナ支援発表 14億ユーロ ゼレンス

ワールド

レバノン国連部隊2人負傷、イスラエル軍は避難指示し

ビジネス

米9月PPI、前年比1.8%上昇 7カ月ぶりの小幅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米経済のリアル
特集:米経済のリアル
2024年10月15日号(10/ 8発売)

経済指標は良好だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギリス人記者が見た、「メーガン妃問題」とは?
  • 3
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    北朝鮮製ミサイルに手を焼くウクライナ、ロシア領内…
  • 6
    南極「終末の氷河」に崩壊の危機、最大3m超の海面上…
  • 7
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 8
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 9
    【クイズ】ノーベル賞の受賞者が1番多い国は?
  • 10
    ウクライナには「F16が緊急にもっと必要」だが、フラ…
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティアラが織りなす「感傷的な物語」
  • 3
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた「まさかのもの」とは?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 6
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 7
    ウクライナ軍がミサイル基地にもなる黒海の石油施設…
  • 8
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイス…
  • 9
    「核兵器を除く世界最強の爆弾」 ハルキウ州での「巨…
  • 10
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 4
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 5
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中