世界の闇社会を牛耳る、頭脳派麻薬王を追え!
Lifestyles of the Rich and Malevolent
高い技能を持ち、普通の仕事に飽き足らない者が犯罪組織に集まる C.J. BURTONーCORBIS/GETTY IMAGES
<ノンフィクション作家のエレーン・シャノンが語る、世界を混乱に陥れる新手の組織犯罪の脅威>
凶悪犯と麻薬について書かせたら、この人の右に出るライターはまずいない。
ニューズウィークとタイムの元ベテラン記者、エレーン・シャノン。メキシコの麻薬王と腐敗した警察の癒着を暴いた88年刊行の『デスペラードス』で、一躍この分野の第一人者となった。映画監督のマイケル・マンがこの本をドラマ化したNBCのミニシリーズ『ドラッグ・ウォーズ/麻薬戦争』はエミー賞を受賞。続編もエミー賞にノミネートされた。
シャノンの新刊『ルルー狩り(Hunting LeRoux)』(ウィリアム・モロー社)も、マンが映画化する。巨大犯罪組織を率い、サイバー犯罪にも手を染めた新手の凶悪犯ポール・ルルーを追い詰める米麻薬取締局(DEA)の死闘を活写したドキュメンタリーだ。
ローデシア(現ジンバブエ)で生まれた希代の天才大悪党ルルーと彼が築いた犯罪帝国について、本誌メアリー・ケイ・シリングがシャノンに話を聞いた。
――ルルーを知ったのは?
ヘロインが戦争とテロの資金源になっている現状を書こうと、アフガニスタンで取材を進めていた。私の知る限りでは、イスラム原理主義勢力タリバンは資金の90%をヘロインで得ている。
そんなとき知り合いの捜査官が今までにないタイプの大物を追っていると話してくれた。それを聞いてすぐさま方針転換し、ルルーについて調べ始めた。
――ルルーは従来の麻薬密売人のイメージとは違う。彼が目指すのはコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルとロシアの武器商人ビクトル・ボウト、それにアマゾンCEOのジェフ・ベゾスだと、あなたは書いている。
そう。でも、それだけじゃない。先を読む目がずば抜けている。その証拠に早い段階でコカインに見切りをつけた。彼が麻薬ビジネスに乗り出した04年には、アメリカではコカインの使用は減り始めていた。一方で処方薬──当時はまだそう呼ばれていなかったが、オピオイド系鎮痛剤の使用は増え始めていた。
ルルーは、アメリカ人が好きな2つのことを組み合わせれば、いくらでも儲かると考えた。その2つとはピルとオンラインショッピング。錠剤型のオピオイド系鎮痛剤の密輸を真っ先に始めたのは彼だ。だいぶたってからブームが彼に追い付いた。
――世界各地の紛争や戦争が生み出した「人材プール」があると、あなたは書いている。カネになるなら犯罪でも殺人でもやる連中がごろごろいる、と。
「傭兵のフェイスブック」という言葉を教えてくれたのは、南アフリカの情報機関の元高官。今はサイバーセキュリティーの仕事をしている人物で、いわゆる「善玉ハッカー」だ。彼によると、戦争中や軍事訓練中に人脈を築いた男たちが警備の仕事にありついているという。ここで言う警備とは傭兵のことだ。
アフガニスタンにいたとき、各国政府や軍隊の特殊任務に就いている人たちに話を聞いたが、これから厄介な事態になると、異口同音に言っていた。高度な技能を持ち、アドレナリンがばんばん出るような仕事をやりたがっている連中がいくらでもいるからだ。彼らは普通の仕事では満足せず、危ない橋を渡りたがる。そういう人間を雇う企業は限られているが、ルルーの組織はその1つだ。