世界の闇社会を牛耳る、頭脳派麻薬王を追え!
Lifestyles of the Rich and Malevolent
――ルルーの名はあまり知られていないが。
アメリカ人は麻薬王と言えば、いかにも凶悪で派手な男を連想する。ダイヤをちりばめた銃を持ち、美女をはべらせ、メキシコの豪邸に住んでいるといったイメージだ。ドナルド・トランプ米大統領もそんな固定観念を持ち、国境の壁でそういう連中を閉め出せると思い込んでいる。
だが麻薬取引は以前とは様変わりした。武器密輸と結び付き、資金は中国やレバノンに流れる。レバノンのシンジケートがコロンビアのカルテルと手を組むといった状況だ。それを先取りしたのがルルーで、今のアメリカのオピオイド禍もそういう状況から生まれた。
――DEAは6年前にリベリアでルルーを逮捕し、司法取引で捜査に協力させた。
そう。DEAは彼の手下を検挙するために、彼に関する情報を全て極秘扱いにした。彼の存在や活動も、彼が牛耳るグローバルな犯罪帝国についても。
ルルーが雇った殺し屋は世界中どこにでも出没する。捜査当局はそのネットワークの全容をまだつかんでいない。実際、彼の傭兵の1人が私と話したいとメールを送ってきたばかりだ。
――それは本当か。ルルーは7件の謀殺を認め、恐怖支配で組織を統率してきた男だ。あなたの命が危ないのでは?
それはないと思う。むしろ情報提供者のことが心配だ。ルルーは復讐心が強い。
捜査官は彼がどこかに巨額の資金を隠しているとみている。香港にマンションを持っていて、中国の銀行にも口座があった。
香港当局は大量の金塊と爆薬の原料を押収したが、それが全てという保証はない。ルルーは一般の刑務所に移送されれば、今よりも外部と連絡が取りやすくなる。そのとき彼が何を指示するか予測不可能だ。
――彼には良心が欠けているようだ。北朝鮮から覚醒剤のメタンフェタミンを買い、北朝鮮は収益を核兵器開発に充てていた。
彼が北朝鮮から入手したメタンフェタミンは純度99.7%。覆面捜査官が録音したテープで、彼は北朝鮮の製造施設は1カ月に何トンもの高純度メタンフェタミンを生産できると豪語していた。私の計算では、末端価格で10億ドルにもなる量だ。
――あなたはDEAの捜査官、特に特殊部隊の第960班の活躍を詳述し、彼らに対する世論のイメージを覆した。
ルルーについて取材を始めるまで私もこの班のことをよく知らなかった。高度なスキルを持つチームで、グローバルな地下経済に網を張っている。
裏の世界では、多くの悪人が多種多様な悪事を働き、カネとモノを活発に動かしている。一般市民は地下経済の存在に気付かないだけだ。とんでもなく恐ろしい事態が起きるまで......。