確かにデンマークから先進的に始まっている──これからの食と農のスタイル
有名レストランのシェフが作った農園 photo:松岡由希子
<コペンハーゲンのレストラン「ノーマ」で一躍有名になったデンマークの新しい食の形。政府もこの流れを推進し、「ワールドフードサミット」を開催し、新たな雇用創出と美食の国としての確立を目指している...>
有名シェフが農園を作って...
2018年8月末、デンマークの首都コペンハーゲンから約45キロメートル西のライラ市にある農園「ファーム・オブ・アイデアズ」では、収穫の時期を迎えようとしていた。この農園は、コペンハーゲンの一流レストラン「レレ」を主宰するシェフのクリスチアン・ブリージ氏が2016年に創設した"シェフによるシェフのための農場"だ。
畑では、少量多品種で野菜を有機栽培し、牧草地では乳牛やブタ、ニワトリを放牧している。苦味がなくそのまま食べられるケール、果物のように甘いビーツ、ゴマのように香ばしい味のルッコラなど、いずれの野菜も、味や香りが非常に豊かで、それだけで立派なごちそうになりそうなものばかりだ。ここで収穫された野菜や家畜からの生乳、卵などは、ブリージ氏が主宰するコペンハーゲン市内の4軒のレストランで食材として利用されている。
レストラン「レレ(Relæ)」有名レストラン「ノーマ」が牽引し、多くの人材を輩出
デンマークは、近年、新たな美食の国として世界的に注目されている。有機栽培などの持続可能性に配慮した手法で栽培された地元の旬な新鮮食材を生かし、シンプルながらも、味のバランスや香り、食感に革新性があふれる「ニューノルディック・キュイジーヌ」は、美味しくてヘルシーな食を好み、環境意識も高いデンマーク国内外の美食家たちから人気を集めてきた。
この新たなスタイルを牽引してきたのが、プリージ氏の古巣でもあるコペンハーゲンの有名レストラン「ノーマ」だ。自ら農園を運営し、郊外の農家や食品加工メーカーとコペンハーゲンの一流レストランをつなぐ役割も担うプリージ氏や、シェフの高度な調理技術を学校給食に応用し、子どもの食育につなげるプロジェクト「ブリゲイド」の創設者ダニエル・ガスティ氏ら、多方面で活躍する優秀なシェフを数多く輩出している。
また、「ノーマ」の共同経営者でシェフのレネ・レゼピ氏は、2011年以降、シェフやレストラン、農家、起業家、研究者らのグローバルコミュニティ「マッド」を通じて、持続可能性に配慮され、ヘルシーで美味しい食の普及に向けたムーブメントをデンマークから世界に広げようと取り組んでいる。