NAFTA再交渉「カナダ抜き」の屈辱 ナイーブ過ぎたトルドー首相
Justin Trudeau Can’t Take Any More Humiliation
こうした展開に、カナダではマスコミによるトルドー叩きが始まった。トルドーはこれまでも、外交にナイーブで世界の指導者たちの手玉に取られる首相として、たびたび風刺画のネタになってきた。あるコラムニストはカナダ国営放送のウェブサイトで「(トルドー率いる)カナダ自由党は、アメリカの大統領が今もオバマかヒラリー・クリントンであるかのような考えで外交政策を行っている」と批判した。
その指摘にも一理ある。一貫性のない不満をぶちまけたり交渉姿勢をコロコロ変えたりするトランプに対して、トルドーは時に貿易問題まで得意の社会正義の問題であるかのように扱った。たとえば2017年には、トロントで開催された女性の権利をテーマにした会議の場では、ジャーナリストに対して、NAFTAを改定するならジェンダーの平等の全面的な保証が盛り込まれるべきだと発言した。カナダの交渉担当者は先住民の権利についての一章もNAFTAに追加しようとしているとも報じられた。こんな提案にトランプ政権が乗ってくると思うこと自体がナイーブと言われる所以だ。
「無傷」での危機克服に期待も
米メキシコ貿易協定についての報道に、カナダは危機感を覚えている。合意の草案に、自動車部品の域内調達率の引き上げなどカナダが反対してきた条項がが含まれているだけではない。国家のメンツの問題として、自国を除く二カ国がまとめた合意をおとなしく受け入れて署名するのは、カナダにとって耐えがたい屈辱だ。
それでも、危機感はあるがまだパニックにはなっていない。8月末のカナダのS&Pトロント総合指数はおおむね横ばいを維持。カナダ・ドルの価値も(1カナダ・ドル=約0.77米ドル)1カ月前と変わらない。これはトルドーが──そしてもっと重要なことにカナダが──その尊厳にも経済にも傷を付けることなく、この危機を乗り越えられるという期待があるからかもしれない。期待の理由3つを紹介しよう。
まずNAFTA再交渉の「期限」は8月31日とされてきたが、カナダはさほど焦っていない。それは、新たな貿易協定は米連邦議会の承認を受ける必要があり、そのプロセスには何カ月もの時間がかかる可能性があるからだ。うまくすれば、審議が行き詰まる可能性もある。