最新記事

中国

「墨かけ女子事件」は中国民主化運動に発展するか?――広がる「習近平の写真に墨汁」

2018年7月17日(火)16時40分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

上海・ビル取り壊しに抗議 習近平のポスターで覆う(2016年) Aly Song-REUTERS

7月4日、29歳の女性が一党独裁反対を叫んで習近平の写真に墨汁をかけた。その日のうちに拘束されたが、自撮りでネットにアップされた行動は連鎖反応を起こしている。民主活動家と中国共産党老幹部を取材した。

習近平の写真に墨汁をかけた女性

7月4日午前6時40分過ぎ、上海の海航ビルの前で、壁に大きく貼られた習近平の写真(ポスター)に墨汁をかけた女性が、その様を自撮りしてネットにアップした。女性の名は董瑶けい(「けい」は王へんに「京」)で、湖南省出身の29歳。このときは上海の不動産業関係の会社に勤務していたらしい。

彼女は概ね、以下のようなことを叫びながら、習近平の写真に墨汁をかけた。

●習近平の独裁的な暴政に反対する!

●中国共産党は私をマインドコントロールし、迫害している。

(筆者注:このとき彼女は「洗脳」という言葉を使わず、「脳控」という言葉を使った。これは「操(あやつ)る」とか「支配する」の中国語である「操控」の「控」の文字を使ったもので、「脳控」は「マインドコントロール」と訳すのが適切だろう。中国で建国以前から長年使われてきた「洗脳」を使わず「脳控」を使った意味は大きい。)

●私は習近平を恨む!

●(墨汁を習近平の写真にかけながら)さあ、見て下さい!私が何をしたかを!

●習近平よ、私はここにいる。さあ、捕まえにいらっしゃい。私は逃げない!

●中共が私たちをマインドコントロールして迫害していることを国際組織が介入して調査してほしい!

墨をかけられた習近平の顔の隣には「中国の夢」という政権スローガンが空しく呼び掛けている。

その日のうちに消えてしまった董瑶けい

自撮り動画がネット上にアップされると、それは一瞬で中国語圏の多くのネットユーザーの間に広がり、大きな衝撃を与えた。その中の一人である民主活動家の華涌(芸術家、男性)が、董瑶けいの動画をシェアした。中国政府はツイッターの使用を規制しているが、VPN(Virtual Private Network)などを通せば使えるので、多くの人がツイッターを使ったり、中国で許されているメッセージアプリWeChatを使ったりして、その動画は凄まじい勢いでシェアされたのである。

午後になると董瑶けいは自宅から、ドアの覗き穴から見える私服や制服の公安局員の姿を発信した。それを見た華涌は董瑶けいに「ドアを開けるな!絶対に外に出るな!現場をそのままツイッターし続けろ!ネットユーザーが見続けている。それがあなたの身を守るのだ」と呼びかけ続けたが、やがて映像がプツリと消えた。そして彼女とは一切、連絡が取れなくなってしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中