EU最優等生ドイツの「泣き所」 出遅れたデジタル化
もう1つの問題は、全体を取り仕切る政府部門の不在だ。運輸・デジタルインフラ省はブロードバンド設置、経済省は新しいテクノロジーの促進、内務省は安全保障、法務省はデジタル時代の消費者保護をそれぞれ管轄している。さらに、計画の承認は地方当局の役目だ。
このような問題に対処するため、メルケル首相は3月、バイエルン州出身のドロテー・ベア議員をデジタル化担当相に任命した。
ブロードバンドのインフラを向上し、デジタル技術を促進する必要性については大筋合意されている。内閣は、学校でデジタル教育を促進するために政府資金を投じる計画を承認した。
しかし、それには憲法修正が必要となるため、11月になるまで資金が使えないと、ある政府高官は語った。教育は伝統的にドイツに16ある州の管轄だからだ。これもまた、デジタル化推進を遅らせる官僚制度の一例だ。
<デジタル化は後回し>
冒頭のツェムラー氏の会社は近年、年間売上高の伸び率が20─30%と高く、注文に応えるのに精一杯で、BVMWから話をもちかけられるまで、デジタル技術への移行について考えていなかったという。
高成長ゆえにデジタル技術への移行が看過されるというのは、よく耳にする話だ。昨年のドイツの成長率は2.5%で、2011年以降で最も力強い伸びを記録し、フランスとイタリアのそれを上回っている。
企業は先を見据えて考える必要があると、デジタル化担当相のベア氏は指摘する。
「台帳に書ききれないほど注文があるのは喜ばしいことだが、自動的に今後もそれが続くわけではない」とベア氏。「ドイツの中小企業の特徴は長年、4半期ベースではなく世代で考えてきたことだ。デジタル化なくして、将来が保証される企業など1つもない」
ドイツの建設業界も好景気に沸いており、今年の売上高の伸びは6%と予想されている。気に入った契約だけつまみ食いすることが可能な建設会社にとって、ブロードバンド契約はリストのトップには上らない。ここでも、ドイツにおける「成功」が、デジタル化の進捗(しんちょく)に対してブレーキの役割を果たしている。