EU最優等生ドイツの「泣き所」 出遅れたデジタル化
カネはあれど
ドイツ中小企業連盟BVMWのアレクサンドラ・ホルン氏が率いるチームは、ツェムラー氏と協力して、彼の会社に在庫管理アプリを導入した。これは「デジタル・トゥギャザー」と呼ばれる政府支援の一環だ。
首都ベルリンの健全な起業環境が、他の地域における取り組みの遅れを隠しており、こうした主要都市の外にある企業に対してデジタル化を持ちかけると、笑われることがあると、ホルン氏は語る。
貧弱なインターネット環境のため、「デジタル化の事業モデルが実行に移せない。単純明快だ」とホルン氏は言う。
OECDによると、ドイツ企業のわずか16%しか「生産性向上の主な促進剤」であるクラウドサービスを利用していない。これはOECD加盟国平均の25%をはるかに下回り、57%のフィンランドや48%のスウェーデン、そして45%の日本などに比べ、大きく出遅れている。
「インフラがなければ、経済のデジタル化は成功しない」と、OECDの通信・インターネット専門家、ベレーナ・ウェーバー氏は指摘する。
ドイツの連立政権は、2025年までに高速・大容量のインターネット網を全国に普及させると約束。ドイツ全土に光ファイバー網の敷設を目指している。OECDのデータによれば、光ファイバーによるブロードバンド普及率がわずか2%のドイツに対し、日本は76%、ラトビアは62%、スウェーデンは58%に達している。
ショルツ財務相は5月、政府が想定以上に好調な税収を投入して、デジタル化に向けた基金を設けると発表。財務省は今年、同基金に24億ユーロ(約3070億円)を割り当てる。今後、この基金は第5世代移動通信システム(5G)モバイル通信ライセンスのオークション収入により増えることが見込まれる。
だが、カネを投じれば、問題が必ず解決するとは限らない。
前出したシュパーン副財務相(当時)の書簡は、ブロードバンド投資に政府が昨年確保した6億8900万ユーロのうち、2200万ユーロしか使われなかったことを明らかにしている。政策当局者や企業経営者は、補助金の入札手続きが遅く、複雑なあまり、資金が使われないことも多いと不満を漏らす。
これには、メルケル首相も同意見だ。「われわれは承認手続きを迅速化しなければならない」と首相は5月に語った。