最新記事

中国よりも おそロシア

W杯ロシア代表、予想外の躍進もプーチンは興味なし?

2018年6月26日(火)17時50分
藤田岳人(本誌記者)

プーチンにとって戦争は「おいしい」戦略

プーチンのお気に入りのスポーツといえば、国際大会で華々しい成績を収めてきたアイスホッケー。そして柔道をはじめとする格闘技だ。ただ、それ以上にプーチンがひきつけられ、さらに国民の愛国心を燃え上がらせるものがある。戦争だ。

ウクライナやシリアへの軍事介入でプーチンは、自国が払った犠牲に比べて大きな戦果を挙げた。あるイギリス政府高官は「シリアへの介入は大勝利だったと主張し、ロシアは中東地域でも無視できない存在として復活したと主張できる」と、外交的な意味合いを説明する。また戦争とその勝利は、プーチンの支持率アップと政権の基盤強化につながる。

5月に大統領としての4期目をスタートさせたプーチンが、この「おいしい」戦略をもう繰り返さないと考える理由は乏しい。メリットがデメリットを上回ると考えれば、躊躇なく軍事力を行使する危険性がプーチンにはある。

その判断を下すうえで、国際的な規範は通用しない。自身の利益になると判断すれば、世界の協調やルールなど平気で無視してきた。ウクライナやイギリス、さらには自国民に対して空爆や化学兵器使用を行うバシャル・アサド政権を支援するシリアで、そのことは証明されている。

そう考えるとサッカーはもちろん、激しいぶつかり合いが醍醐味のひとつであるアイスホッケーも、さらには格闘技ですら、ルールに縛られている以上はプーチンにとって退屈な代物なのかもしれない。

◇ ◇ ◇

日本ではなぜかその危険性が軽視され、脅威論といえば中国ばかりが目立つが、現在の国際舞台におけるロシアは、ピッチ上の代表チームよりはるかに危険な存在だ。

本誌7/3号の「中国よりも おそロシア」特集では、本誌コラムニストで元CIA工作員のグレン・カールが、日本人が気付かないうちに日本が既に巻き込まれているロシアのアジア戦略と、そこで行われている冷戦さながらの情報戦について解説する。

さらに、4期目を迎えたプーチンが最後に成し遂げようとしている野望、繰り返されてきた政敵や元スパイの暗殺事件に関する新説、世界の独裁者たちがたどった末路などを紹介。

今はW杯を成功させることに集中しているであろうプーチンだが、その頭の中では今後の世界情勢についてどんな戦略が練られているのか。

ちなみにロシアがウクライナのクリミア自治共和国を自国に編入したのはソチ冬季オリンピックの翌月、シリア内戦に介入して空爆を開始したのは、その翌年のことだった。


180703cover-150.jpg本誌7/3号(6/26発売)特集「中国よりも おそロシア」では、中国より危険な北方の隣国ロシアの恐ろしさを検証。他国への軍事介入や諜報活動、サイバー攻撃、暗殺......ロシアが狙う新たなターゲットは何か。華やかなW杯の陰でプーチンがめぐらす謀略とは>

『SPECIAL ISSUE 丸ごと1冊 プーチン 「最恐」独裁者の素顔とロシア復活の野望』も好評発売中です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中