W杯ロシア代表、予想外の躍進もプーチンは興味なし?
ロシアW杯の第2戦、ロシア代表はエジプトを3-1で下したが、プーチンはこの試合を見ていない Fabrizio Bensch-REUTERS
<ロシアのプーチン大統領はおそらくサッカーに興味がない。そのプーチンがサッカー以上にひきつけられ、また半数以上がサッカーに無関心というロシア国民の愛国心を燃え上がらせるものは、別にある。戦争だ。本誌7/3号(6/26発売)特集「中国よりも おそロシア」では、中国より危険なロシアの恐ろしさを検証。他国への軍事介入や諜報活動、サイバー攻撃、暗殺......ロシアが狙う新たなターゲットは何か>
ワールドカップ(W杯)のグループリーグで最大の大番狂わせを演じているのは、日本ではなく開催国のロシアだろう。ロシアのFIFAランキングは出場国中で最下位の70位。昨年11月から本番開幕まで、7戦連続で勝ち星を挙げることができずにいた。
それが開幕戦でサウジアラビア(ランキング67位)を相手に5-0というまさかの大勝をおさめると、続く第2戦でもエジプト(ランキング45位)に3-1の勝利。第3戦のウルグアイ(ランキング14位)戦は0-3で落としたが、見事に決勝トーナメント進出を決めた。
これにはウラジーミル・プーチン大統領もお喜びのはずだ。とはいえそれは、彼がサッカーファンだからではない。
政治・軍事の舞台で世界の強豪国を相手に激しい戦いを繰り広げ、欧米メディアで「世界で最も危険な指導者」と称されることも多い彼にとっては、代表チームのパフォーマンスもまだまだ満足いくものではないだろう。
それ以上に、プーチンはおそらくサッカーそのものに興味がない。報道官によれば、エジプトに勝利した第2戦も、外遊先のベラルーシから帰国する機内にいた彼は観戦していない。
プーチンが喜んでいるとすれば、それは代表チームの活躍が彼自身の利益になるからだ。開幕戦勝利のグッドニュースが国内に流れたその日、ロシア政府は増税と年金支給年齢の引き上げという、国民受けの悪いバッドニュースを発表した。プーチンにしてみれば、代表チームのおかげで、バッドニュースの注目度が下がることになったのだ。
さらに、W杯史上最高水準の推定190億ドルをつぎ込んで開催準備を進めた背景には、大会の成功を国際社会におけるロシアのイメージ改善につなげたいとの思いもあるとされる。「軍事的に強いだけでなく、国際的な水準のイベントを開催する力があると世界に見せつけたい」のだと、カーネギー国際平和財団モスクワセンターのアンドレイ・コレスニコフは分析する。
とはいえ、スポーツイベントの開催に成功したからといって、国外におけるロシアの悪評やロシアへの恐怖心が簡単に消えるわけではない。
東部地域の独立派にロシアが加勢していると訴える内戦中のウクライナや、平和な地方都市で起きた元スパイの暗殺未遂事件をロシア政府の指示によるものと疑うイギリスなどで、ロシアの評判を覆すのは難しいとプーチンも重々承知しているはずだ。
さらに、サッカーが人気の国でありがちな、代表チームの活躍がナショナリズムを掻き立てて政権の支持率上昇に貢献するという効果も、ロシアでは見込めない。ロシアでもサッカーは比較的人気のスポーツではあるが、W杯前に行われたある調査ではサッカーに興味がないと答えた人が半数以上。長年のファンだと答えたのは16%だった。
そのうえソ連時代から、サッカーは権力者たちに好まれることがなかった。ロシアのスポーツ史を研究するカリフォルニア大学サンディエゴ校のロバート・エデルマンは、ヨシフ・スターリンもサッカーには「なんら興味を持っていなかった」と、オンライン誌クォーツで語っている。ロシアはスポーツ選手の好成績を国策としてプロパガンダに利用してきたが、そこでもサッカーは蚊帳の外だったというわけだ。
【参考記事】ロシアW杯をプロパガンダに利用するプーチン