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元CIA工作員の告白

「拷問したのか?」と元CIA工作員の本誌コラムニストに聞いた

2018年6月5日(火)18時18分
小暮聡子(本誌記者)

――あなたの指揮系統外で、水責めをされた拘束者はいたのか。

水責めをされた拘束者はいる。

――その現場を目撃したことはあるか。

ない。そうした現場は複数存在していたが、私自身は見たことがない。

――拷問に反対したのはあなただけだったのか。

いいや。私の同僚のうち多くの人は私と同じくらい動揺していた。だが、ある組織の歯車がいちど動き始めると、それを止めるのは非常に難しい。

――何人くらいの人が水責めを実行し、何人くらいが水責めをされたのか。

どちらの人数も正確には把握していないが、水責めされたのはおそらく数十人で、やったほうはそれより多いのではないかと思う。私が数カ月でほかの職員と交代したように、やる側は入れ替わっていることを考えると、やったほうが多いのではないかと想像する。

――あなたの同僚が水責めを実行していたとしたら、彼や彼女は法を犯したと思うか。

もちろんだ。

――やった、という人と話したことはあるか。

同僚のうち何人かを知っている。

――彼らの心情はどのようなものなのか。

誰もが、立派な行動を取ろうと最善を尽くしている。指令について、別々の人がそれぞれ違った行動を取る。

私はあの指令は狂っていて、そうであることは明白で、間違っている、だからやらないと思った。私にとっては自明のことだったが、大統領からの指令で司法省に承認されたのであれば合法だから、やらなければならない、という人もいた。

――水責めを実行した人たちは後悔しているか。

彼らの心情を代弁することはできないが、後悔している人もいるし、していない人もいると思う。

――あなたは指揮系統の真ん中にいたわけだが、あなたが受けた拷問の指令を部下に命じた場合、それはあなた自身が出した指令になるのか。

私は指揮系統で言うともっと下のほうになると思うが(笑)、私の任務は、ある特定の拘束者についての情報チームを率いることだった。私は上司から、どんな手を使ってでもこの拘束者の口を割らせろ、クリエイティブなれ、圧力をかけろと言われた。

具体的に何をしろ、という指令はなかったが、指令なのにあえて具体性を欠いていること自体が、犯罪行為であることの証しだ。

拷問した日本兵を絞首刑にしたアメリカは矛盾している

――(水責めを容認する発言をした)トランプ大統領の拷問や水責めについての立場をどう思うか。

水責めは犯罪だ。(もし命じたとしたら)彼は戦争犯罪人になる。

――ブッシュは戦争犯罪人だと思うか。

拷問を指令し承認した指導者は戦争犯罪人だという、説得力のある主張はできるだろう。

――昨日の(東京での)講演会であなたは、アメリカは戦時中に日本兵が水責めなどの拷問を行ったとして、戦犯裁判で有罪にしたと語っていた。

そのとおり。有罪にして、彼らを絞首刑にした。

――アメリカのこうした矛盾した態度をどう思うか。

アメリカの立場がいかに偽善的であるかを証明している。アメリカが拷問に反対という立場を覆したのか、あるいは偽善的な行動を取っているのか、そのどちらかであることの証しだ。それによって、自国の価値を自分たちの手で貶めている。

もし以前にアメリカが拷問は戦争犯罪だとして誰かを絞首刑にしていたとしたら、今それをやった人物を正当化することはできない。アメリカは戦後の戦犯裁判で、たとえ上官の指令があったとしても、その指令は国際法に違反していると判断した。つまり、指令に従っていただけだ、というのは抗弁としては有効ではないということだ。

それまでのアメリカの国際法に対する一貫した立場に鑑みれば、アメリカは(拷問を行ったことによって)法を犯したことになる。アメリカ自身がこうした国際法を起草してきたのに、それを軽視した。

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