「拷問したのか?」と元CIA工作員の本誌コラムニストに聞いた
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<9.11後の「拷問施設」の責任者だった人物がCIA長官に就任したが、本誌に寄稿するグレン・カールは、まさに現役時代に「強化尋問プログラム」に関わった人物。何があったのか、誰がやったのか、そしてブッシュは知っていたのか>
「諜報機関」というのはその性質上、そのミッションも活動要員も秘密のベールにくるまれ、詳細が表舞台に出てくることは稀だ。
しかし9.11テロ後、ブッシュ政権下のCIA(米中央情報局)がキューバのグアンタナモ米軍基地でテロ容疑者に対して「水責め」など拷問に等しい「強化尋問プログラム」を行っていた事実が明るみに出ると、米諜報機関のイメージは地に落ちた。
水責めは、傾斜した板に足を上にして容疑者を固定し、鼻と口に水を注ぎ続けて溺死寸前の状態に追い込む尋問方法だ。2014年の米上院情報委員会が発表した報告書によれば、こうした手法が有効だった事例はほとんどないにもかかわらず、CIAは国際テロ組織アルカイダの大物幹部ハリド・シェイク・モハメドに水責めによる尋問を15セッションも行っていた(1回のセッションで繰り返し水責めに遭わされる)。
2年前からニューズウィーク日本版のコラムニストを務めているグレン・カールは、ブッシュ政権が主導した「対テロ戦争」時に、現役CIA工作員として「強化尋問プログラム」に関わった人物だ。
しかし、これまでにカールが本誌に寄稿してきたコラムにはそのような行為を正当化する主張は見当たらず、どちらかというと(ドナルド・トランプ大統領に対する批判を見ても)リベラル寄りに思われる。
何より、アメリカのニューイングランド地方に住んでいるというカールとの度重なるメールを通して見えてくるのは、理知的で礼儀正しく、人間関係を大切にする極めて紳士的な性格だ。拷問に手を染めるような要素は見て取れない。
そのカールが、5月中旬に来日した。経歴とのギャップに興味をもち、ずっと会いたかった「元CIA工作員」に、インタビューを申し込んだ。想像していた人物像と寸分たがわない柔らかさをまとって現れたカールは、「やっと会えたね」と笑みを見せ、西日が差す明るい編集部の一室で2時間近くにわたって質問に答えてくれた。
カールは、「強化尋問プログラム」にどう関与したのか。最高司令官である大統領には絶対服従が基本という政府組織の中で、上司から自分の信念に反する任務を「忖度せよ(=実行せよ)」と言い渡されたとき、どう動いたのか。
2007年に退職するまで国外を拠点とする工作員として23年間働き、最後のポストは米国家情報会議の情報分析官(多国籍テロ担当)としてテロや国際犯罪、麻薬問題の戦略的分析を行っていたというカールに、話を聞いた。
――情報分析官として携わった実際の仕事について教えてほしい。2011年発売の著書『尋問官』(未邦訳)で、9.11テロ後に容疑者に対する尋問を指揮した経験について書いている。
2001年に9.11が起き、02年のあるとき、私は翌日から数カ月間国外に行けるかとボスに尋ねられた。君にとってもCIAにとっても、国にとっても重要な任務だと。詳細についての話はなかったが、任務を受けると回答すると、ある人物から詳細について話があると言われた。
そこでその人物から話を聞くと、「CIAはある人物を拘束した。君の任務は、この人物に『どんな手を使ってでも』口を割らせることだ。了解したか」と言われた。これを聞いて、私は心底驚いた。
「我々はそんな手段は採らない」と言うと、「いや、今は採るんだ」と返された。そこで私は、「そんなことをするには、少なくとも大統領からの直接指令が必要だ」と言い返した。「それならもうある」と言われたが、私にはそれさえどうでもいいことだった。大統領はそんな指示をすることを許されていないからだ。
「何か容認できない事態が起きたらどうするのか」と聞いたら、「その場を去ればいい」と。「何かが起きたとしても、君は何も見ていない。見ていないということは、何も起こらなかったということだ」と言われた。
私は、そんなことは狂っているし、間違っていると思った。「(捕虜への人道的な取り扱いを定めた)ジュネーブ条約はどうなるんだ」と聞いたら、答えは「君はどちらの旗に仕えているのか」だった。私は「何てことだ! 違法行為を命じるなんて」と思った。これが、私が尋問プログラムに関わるようになった経緯だ。
<トランプ政権下で初の女性長官が誕生したCIA――。アメリカの「拷問」と日本を含む世界でのスパイ活動の実態とは? 本誌6/12号(6月5日発売)は「元CIA工作員の告白」特集です>