マレーシア航空めぐる2つのミステリー 明暗分かれる原因判明と捜索打ち切り
ロシアのプーチン大統領は関与を否定
これはそれまでの中間報告で明らかにされた「ミサイルはロシア製地対空ミサイル「ブク」ということと、発射地域の断定」に加え、今回この「ブク」を保有している組織を「ロシア軍」と断定したところが新たな進展である。しかし、発射に直接関与した組織に関しては明言を避け「今後さらに捜査を進める」とだけしている。
これに対しロシア国防相は「ロシアは防衛システムをウクライナに持ち込んだことはない」との否定的見解を早速インタファックス通信を通じて公表。サンクトペテルブルクで開催中の経済フォーラムに出席中のプーチン大統領も「もちろんそう(ロシア軍のロケット)ではない。調査結果の信頼性を示すものは何一つない」と切って捨てる否定の談話を発表している。さらに「何が起きたかについては複数の説が存在する」と指摘。別の可能性があるとの独自の見解で調査結果に不快感を示した。
MH17を撃墜したミサイルを発射した組織が今後特定されれば、航空機や犠牲者の補償問題に直面すること以外に国際的な厳しい批判にさらされることになるため、調査団の捜査と発射した可能性のある組織の激しい応酬が予想されている。とはいえミサイルの保有先がロシア軍であることが判明したことで「撃墜ミステリー」の真相解明が一歩前進したことは間違いないといえる。
乗客激減で国有化されたマレーシア航空
マレーシア航空は2014年の消息不明、撃墜という2つの「ミステリー」の影響を受け、深刻な乗客数の激減という事態に直面した。以前からの経営難にこれが拍車をかける形となり、経営はさらに悪化。同年8月には2万人の従業員のうち約6000人を解雇し、欧州路線を中心に不採算路線の整理など再建策を進めたものの痛手は深く、同年末には上場を廃止し、実質的な国有化が図られた。
その後ナジブ政権のテコ入れもあり、燃料効率のよくない大型機エアバスA380の引退促進や格安航空会社(LCC)との棲み分けでなんとか経営破たんを免れ、経営状況は近年やや安定化してきたといわれている。
しかしマレーシアを代表するLCCの「エアアジア」が好調に成長するなか、マレーシア航空は相変わらずの苦戦を強いられている。マレーシア航空のシンボルであり、尾翼に大きく描かれている伝統的な三日月凧「ワウブラン」のように同社が大空高く舞い上がる日が再来するにはまだまだ道のり遠しというのが現実だ。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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