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神戸製鋼所、底なしのデータ改ざん 「モノづくり日本」に傷

2017年10月31日(火)17時05分


業界下位の焦り

問題となっている品質データ改ざんは、業界の商慣行である「特別採用(トクサイ)」を悪用したことが明らかになっている。

神鋼関係者によると、鉄鋼製品でもアルミでも納入先企業が求める寸法や強度などの規格(協定仕様)に合致しているかどうか、出荷時に工場で検査する。規格から外れていても、使用目的に対して不足が生じない場合は「特別採用」、「トクサイ」と称して顧客に通知し、了解を得たうえで出荷する。

自動車メーカーや鉄道会社などは、今回のデータ改ざんについて「今のところ納品された製品の安全性に問題はない」としていることから、本来は「トクサイ」だった可能性もある。

しかし、神鋼は規格に合っていない場合でも、検査証明書(ミルシート)を書き換え、規格通りの製品として出荷していた。

「『勝手トクサイ』をやってたっちゅうことやな」。神戸製鉄所に勤務していた神鋼OBは、こう指摘した。

トクサイ制度そのものは法令に反するものではなく、製造業で広く使われている。歩留まりを上げる努力はしているものの、わずかに規格から外れる製品は発生する。それを救済するのがトクサイという商慣習だ。

それにもかかわらず、神鋼はデータを改ざんした。別の神鋼OBは「データを書き換えるというのは意図があり、悪質性を感じる」と語った。

一方で、先の神鋼OBは現役時代を振り返り、「トクサイを出すのは、始末書を出すのと同じような感覚。気軽にできるもんではなかった」と打ち明ける。上司はもちろん、顧客も手続きの煩雑さを嫌がる。「どこかで『この程度なら』という気の緩みが生じたのかもしれない」と推し量る。

鉄鋼メーカーの中で、最も多角化が進んでいる神戸製鋼。ただ、主力の鉄鋼部門の年間粗鋼生産量は、トップの新日鉄住金の4200万トンはもちろん、2位のJFEスチール2800万トンにも及ばない業界3位の720万トン規模に留まる。

それを自動車業界向けでトップシェアを誇るアルミ事業のほか、95年の阪神大震災後に取り組んだ神戸製鉄所での発電事業、建設機械などの他事業で補う構造だ。ただ「アルミ以外は、どの事業も業界3番手クラス。競争力は決して高くはない」(証券アナリスト)のが実情だ。

06年のばい煙データ改ざん問題で、神鋼が経済産業省などに提出した報告書には、原因の一つとして「環境保全よりも生産を優先」と記された。証券アナリストは「業界下位企業ゆえに、収益優先の圧力が過剰だったのかもしれない」と分析する。

神戸製鉄所、加古川製鉄所の幹部を務めた神鋼OBは「(不正を)見ていながら見ないふりをする企業風土があった。しかし、不正を発見したら注意する文化を育ててきたつもりだ。結局、企業文化を作れなかったということか。経営陣の責任だ」と唇をかんだ。

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