神戸製鋼所、底なしのデータ改ざん 「モノづくり日本」に傷
事業ごとのバラ売りも
「影響の深刻さによっては、神鋼は事業ごとのバラ売りになる可能性もある」――。こんな刺激的な言葉が、金融界ではささやかれ始めた。
ある外資系証券の在日代表は「東芝は財務の問題。製品に対する信頼性は失っておらず、顧客は離れていない。神鋼の場合は顧客の信頼を失いかねない」とみている。
海外では米国司法当局が調査に乗り出したほか、欧州航空安全機関(EASA)も域内の航空機関連企業に対して、神鋼の製品の利用を可能な限り控えるよう求めた。今後の受注や営業にダメージを受ければ、資金繰りが急速に悪化し、業界再編の渦に巻き込まれかねない。
真っ先にスポンサー候補に上がるのが、新日鉄住金<5401.T>やJFEホールディングス<5411.T>などの同業大手。しかし、「神鋼の技術力は捨てたものじゃない。海外鉄鋼メーカーも喉から手が出るほど欲しいだろう」と大手銀行幹部は話し、具体的な社名も挙げる。
神鋼の時価総額はすでに3300億円にまで下がった。データ改ざん問題が発覚してから1カ月足らずで3割が吹き飛んだ計算だ。「もう少し安くなったらどこがTOB(株式公開買い付け)を仕掛けてもおかしくない」(投資銀行幹部)状況だ。
神戸製鉄所に残っていた最後の高炉は31日に、その火を落とした。鉄鉱石から鋼鉄をつくる上工程は加古川製鉄所の2基の高炉に集約する。高炉の跡地には安定収益が見込める電力事業を強化するため、21年の稼働を目指して石炭火力発電所を2基増設する計画だ。
製鉄所の変化とともに街も趣を変えた。神戸製鉄所正門の最寄り駅、阪神電鉄新在家駅の周りにはかつて、高炉で働く夜勤明けの従業員のために午前7時から店を開ける飲み屋が立ち並んだ。製鉄所の省力化で従業員も少しずつ減り、10年ほど前には朝から飲める店は姿を消した。
今も数件の居酒屋が並ぶ。しかし、ある店は改ざん問題以来、すっかり客足が止まった。客は製鉄所の従業員がほとんどだ。店主は「飲みに出るのを自粛してるんやろ。会社から言われてるのかもしれんな」と話す。
例年であればそろそろ埋まるはずの忘年会の予約もまったく入らない。開業してから20年近くになる。95年の阪神大震災で壊滅的打撃を受け、復活を果たした神戸製鉄所とともに歩んできた。「早く胸を張って働ける神鋼になってほしい」。従業員だけでなく、取引先企業、地元の人々に共通する思いだ。
(布施太郎 取材協力:清水律子、大林優香 編集:田巻一彦)
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