神戸製鋼所、底なしのデータ改ざん 「モノづくり日本」に傷
データ改ざん、ばい煙測定で06年にも「前例」
兵庫県内に本社を置く企業で、売上高1兆円を超えるのは神鋼と川崎重工業<7012.T>の2社のみ。医療検査機器のシスメックス <6869.T>など成長企業も育っているが、存在感は依然として大きい。
10月下旬のある日の午前8時過ぎ、神戸製鉄所の正門から出てきた30代前半の社員は「地元で一番の会社に入りたいと思った」と語った。高炉の仕事を誇り、24時間3交代の勤務をこなす。この日は午後10時から午前7時までの勤務だった。「(データ改ざん問題が)職場で大っぴらに話題になることはない。ただ、みんな口には出さないが、心の中では心配していると思う。重苦しい雰囲気」と話した。
地域で圧倒的なブランド力を誇る神鋼だが、実はその裏で「不祥事が絶えない会社」(神戸市内に本社を置く上場企業役員)との不名誉な評判も付きまとう。
「全く同じ構図だ。神鋼は変わっていなかったのか」――。加古川市長3期12年を経て、現在は同市の関連会社代表を務める樽本庄一氏は、今回のデータ改ざんについて、こう漏らした。
2006年5月、神戸製鋼は神戸、加古川の2製鉄所が排出するばい煙測定データを改ざんしていたと発表した。大気汚染防止法の基準値を超える窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)を排出していたにもかかわらず、地元自治体に報告する測定記録を書き換えたり、データそのものを送らなかったりするなど「かなり悪質だった」と、当時市長として対応した樽本氏は振り返る。
当時、神鋼がまとめた報告書によれば、入力されたデータを自動的にグラフ化するためのペンが基準値を超えようとすると、担当者がペン先を持ち上げて記入しないようにしたほか、手入力で実際とは異なるグラフを書き込んでいた。
神鋼は、今回の製品データ改ざんでは顧客を、11年前のばい煙データ改ざんでは地域を欺いていた。
樽本氏は06年、ばい煙データ改ざん問題で謝罪のため市長室を訪れた水越浩士社長(当時)に「こんなことをしていたら、いつか手痛いしっぺ返しをくらいますよ」と忠告したという。加古川市にとって、同製鉄所は地域最大の事業者だ。財政面でも雇用面でも大きな影響力を持つ。事業がうまくいってもらわなければ困る。「よかれと思って話したつもりだが、教訓として受け取ってもらえなかったのだろうか」と残念がった。
だが、神鋼の不祥事はその後も続いた。09年には加古川製鉄所と高砂製作所(兵庫県高砂市)、長府製造所(山口県下関市)で、労働組合が推薦した地方議員候補7人に対する選挙経費の一部肩代わりが発覚。政治資金規正法に抵触し、当時の犬伏泰夫社長と水越会長が辞任した。
不祥事を引き起こすたびに、法令順守(コンプライアンス)を誓う神鋼。しかし、兵庫県内の自治体で神鋼との調整業務を長く担当したある幹部は「神鋼はすぐに裏街道を探して、近道を走ろうとする。それが体質ではないか」と言い切った。