アジア人観光客が世界のトラベル市場を牽引する
インド人客も観光業界のお得意さまだ。現在、外国に旅行するインド人は年間ざっと2000万人だが、20年までには5000万人に上ると、UNWTOは予測している。若年層の人口比率が高く、中間層が増えつつあるため、外国旅行を楽しむ人は着実に増えるだろう。
インド人旅行者に人気があるのはシンガポール、ドバイ、バンコク、パリ、ロンドン、ニューヨーク。ヨルダンやオーストラリア、イスラエルも負けじとビザ取得手続きを簡素化するなどインド人客の誘致に乗り出している。
決済サービス大手のビザ・インターナショナルによると、25年までにアジア人が外国旅行で使うカネは最高で年間3650億ドルに達し、アメリカ人旅行者が使う金額の3倍になる見込みだ。世界の人口に占めるアジア人の割合が高まることから、こうした傾向にはさらに拍車が掛かるとみられる。今でも世界の人口の60%近くがアジアに集中しているが、30年までにはアジアとアフリカの2地域で世界の人口の80%近くを占めると予測されている。
ヨーロッパではソ連崩壊とEU誕生で人の流れが急速に拡大したおかげで、特に若い世代は国境の垣根にとらわれなくなった。20世紀の2つの大戦の舞台となった大陸で、こうした変化が起きた意味は大きい。
アジアでもここ10年ほどの観光ブームで同じような効果が期待できそうだ。もちろん中国人旅行者が東京で爆買いしたからといって東シナ海問題が解決するわけではない。だが長期的に見れば互いの国を訪れる人が増えることで、より平和なアジアに向けたムードが醸成される。
観光ブームの背景には航空機が利用しやすくなったこともある。香港大学のマックス・ハーシュ助教によると、そのおかげで「アジアの都市部に住む中間層が頭に描く地図が変わった」という。訪れる範囲が広がり、アジア人は自信をつけた。この自信が欧米とそのほかの地域の「希望の格差」になっている。
調査機関ピュー・リサーチセンターによると、新興国と途上国の人々はアメリカ人、ドイツ人たちより未来に対して楽観的だ。欧米の中間層は衰退しているが、新興国、特にアジアでは中間層に勢いがあることから未来が明るく見えるのだろう。
トランプもこっそり便乗
彼らは既にスマートフォンやアルコール飲料や自動車などの業界を大きく変えている。カラチからクアラルンプール、ヨハネスブルクからジャカルタまで、新興国の中間層は世界的な都市化の波を引き起こしつつ、世界経済の消費の伸びを引っ張ってきた。ブルッキングズ研究所のホミ・カラスによると、15年から30年までに世界の中間層の消費は29兆ドル拡大する見込みだが、そのうち先進国の中間層がもたらす増加分はわずか1兆ドルにすぎない。