最新記事

脳科学

なぜ人間は予測できない(一部の)サプライズを喜ぶのか

2017年6月21日(水)21時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 すでに本書では、2015年に人気の高かったスライドシェアの研究について紹介した。その結果からは、人びとの注目を長く引き留め、プレゼンターにとって有利な行動を引き出すためには、驚きが最も信頼できる予測因子であることがわかった。驚きがわずかでも(スライドの5〜10%)含まれていると、それだけで視聴者は心を動かされ、「いいね!」をし、シェアし、ダウンロードし、コメントし、自分のサイトに埋め込む。

 驚きについて神経科学の側面から理解しておけば役に立つ。というのも、誰かを驚かせたら結果の良し悪しにかかわらず、その分だけ感情や関与が生まれるからだ。本章では、驚きを最高の形で創造し、相手の注目や記憶や行動に影響をおよぼすためのガイドラインを紹介する。

驚きはなぜ行動と結びつくのか?

 私たちが驚くときには、脳のなかで2つのプロセスが進行している。発生したばかりの出来事に対する反応と評価だ。反応は素早く(0・15秒以下)、自動的で寿命が短く、意識的なプロセスには滅多になり得ない。発生した出来事に関する情報は高速経路を使って脳の扁桃体に送られるが、この領域では緊急事態に備え、受け取った情報に感情的な意味が当てはめられる。この高速経路は防衛的傾向が強く疑い深いので、驚きに直面すると、想定しうる最悪の事態に自然と適応してしまう。現実的に対応するよりも、危険を過大評価するほうが良い結果につながることを、人間は進化を通じて教えられてきたのである。

 これに対し、ゆっくりした経路では、驚きを引き起こす出来事についての情報が迂回路を通って伝えられる。熟慮や評価に関わる領域である大脳皮質を通ってから、扁桃体に到達する。大脳皮質は発生した出来事について脳が評価する場所で、たとえば警戒をゆるめるよう扁桃体に命じ、「国歌を間違えたぐらいでは銃殺されない」と結論を下す。時間をかけて評価するプロセスは意識できるので、高速経路で進行している事態よりもこちらのほうが関わりやすい。

 速いプロセスとゆっくりしたプロセスは往々にして対立するが、それは目指すゴールが異なるからだ。速いプロセスは潜在的な危険に迅速に反応できることを願うが、ゆっくりしたプロセスは状況を正確に評価して、次回のために準備することを願う。

驚きは予測誤差である

 自然淘汰は未来を正確に予測できる人間にとって有利に働く。そのため、脳は常に早送りの状態へと進化を遂げた。この点を考慮して生物学的に考えれば、驚きは常に悪い要素として見なされるはずだ。未来についての予測が失敗したことに他ならないからだ。たとえばクリネックスのケアキットを思いがけず受け取ったときのように、事態が良い方向に進んだとしても、驚きは予測誤差である。

【参考記事】ディズニーランド「ファストパス」で待ち時間は短くならない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも43人死

ワールド

ウクライナ、中国企業3社を制裁リストに追加 ミサイ

ワールド

米政権、アリゾナ州銅鉱巡る土地交換承認へ 先住民反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    トランプに弱腰の民主党で、怒れる若手が仕掛ける現…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中