最新記事

国交断絶

国交断絶、小国カタールがここまで目の敵にされる真の理由

2017年6月7日(水)08時00分
サイモン・ヘンダーソン

5月21日にサウジアラビアで開催されたアラブ・イスラム・アメリカ・サミット(右2人目から、サウジのサルマン国王、トランプ、アブダビのムハンマド皇太子、カタールのタミム首長) Jonathan Ernst- REUTERS2

<サウジアラビアなど6カ国が突然カタールとの国交断絶を発表。小さなカタールがここまで目の敵にされる背景にはテロ支援などの他に、父を退けて首長の座を奪ったり、女性が自由に運転できる文化など、湾岸諸国の体制を危うくしかねない要素があるからだ>

2017年のドーハは、1914年のサラエボのようになるのだろうか? セルビア人青年がオーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者を暗殺したサラエボ事件は、第一次大戦の引き金になった。今、万一衝突が起きるとすれば、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)を中心とした中東諸国対イランという構図だ。アメリカは、戦争を食い止めるために一刻も早く手を打つべきだ。

サウジアラビアとUAE、バーレーン、エジプトなどの計6カ国は、4日から5日にかけて、カタールとの国交を断絶すると相次いで発表。対イラン強硬姿勢を貫くアラブ湾岸諸国と一線を画してきたカタールが相手だ。

【参考記事】中東諸国のカタール断交のウラには何がある?

サウジアラビアはカタール行きの航空機の上空通過を停止し、カタールの唯一の陸路である国境も、海路も遮断した。どう見ても開戦事由に相当する決定だ。

ちなみに今から50年前の6月5日に始まったイスラエルと中東アラブ諸国の第3次中東戦争(6日間戦争)は、エジプトが紅海のティラン海峡を封鎖したことが引き金になった。怒ったイスラエルが先制攻撃を仕掛け、10日までに圧勝した。

一方のイランは、食料を輸入に頼るカタールに対して、自国の3つの港の利用を許可すると発表したもようだ。サウジアラビアとUAEにしてみれば、やはりカタールは裏でイランと繋がっていたという確信を強めるしかない。

外国人なら飲酒もOK

事態が急展開した背景には、少なくとも2つの説がある。まずカタール政府の言い分を信じるなら、5月24日に国営カタール通信がハッカー攻撃を受け、偽ニュースが流された。その中で、カタールの国家元首タミム首長が「アラブ諸国にはイランを敵視する根拠がない」と発言した、とするデマが流された。

また、カタール政府がイスラム組織ムスリム同胞団やパレスチナのイスラム過激派組織ハマスを支援しているとか、カタールとイスラエルがいいムードだ、とする「報道」もあった。

一方、サウジアラビアやUAEなどは、タミム首長の発言は事実だとしてやり玉に挙げた。各メディアはタミムの発言を繰り返し放送する一方、発言を否定するカタール側の主張が国内で視聴されないようカタール・メディアへの通信を遮断した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 初の実

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中