アジアに迫るISISの魔手 フィリピン・ミンダナオ島の衝撃
山岳拠点
一部の当局者は、フィリピン治安部隊は1月の拠点攻撃の後、ISによる脅威について油断するようになっていたと話している。「彼らがマラウィに潜入していることに気づかなかった。山岳拠点ばかり気にしていた」とフィリピンのロレンザーナ国防相は記者団に語った。
フィリピンとインドネシアの情報機関関係者によれば、ここ数カ月、ハピロンの勢力が、外国人戦闘員とマラウィで新たに徴募した戦闘員によって拡大したと語る。フィリピン軍広報官ジョアル・ヘレラ中佐によれば、外国人戦闘員の多くは、先月マラウィで行われたイスラム教の祈祷イベントに紛れて市内に潜入したという。
ロレンザーナ国防相によれば、ハピロンは50─100人の戦闘員とともに、250─300人規模のマウテグループに合流した。この他に2つの組織、「バンサモロ・イスラム自由戦士」と「アンサール・アルキラファ・フィリピン」が少なくとも合計40人の戦闘員を連れて合流した。
イスラム教の断食月ラマダンが開始する4日前の先月23日、彼らは攻撃を開始した。このときフィリピン軍部隊はマラウィ市内でハピロン逮捕を試みたが断念している。
フィリピン軍が武装した護衛団に阻まれて撤退した後、50口径の機関銃を搭載したトラックに分乗し、携行式ロケット弾と高性能ライフルで武装した約400人の戦闘員が素早く市内に展開した。
数時間のうちに彼らは刑務所と近隣の警察署を攻撃し、武器弾薬を奪った、と住民は証言する。
プロテスタント系の教育機関であるダンサラン・カレッジとカトリック系の大聖堂は破壊され、1人の神父と十数人の教区民が拘束された。彼らは今も人質になっている。
シーア派のモスクも破壊され、スペインの支配に抵抗して蜂起したフィリピンの英雄ホセ・リサールの銅像も頭部を切り落とされた。
屋根の上に狙撃手
ヘレラ中佐によれば、この攻撃には、専門的な軍事作戦の特徴が見られるという。「マラウィ全域を制圧するための、大掛かりな戦略だ」と中佐は言う。
最初の戦闘が終わった後、市内各所でISの旗がはためき、覆面をした戦闘員が街路でマラウィを手中に収めたと叫び、拡声器を使って住民に参加を呼びかけ、呼びかけに応えた者に武器を配っていた、と地元住民は語る。
軍はヘリコプターを投入して武装勢力の拠点にロケット弾を発射し、地上部隊が主要な橋梁やビルを奪回しはじめた。だが一部の住民によれば、この反撃によって民間人も犠牲となったという。
「IS戦闘員は通りを走っていたかと思うと姿を消す。軍は通りにいる彼らを爆撃するが、われわれの家やモスクに命中した。他の多くの家もやられた」。 妊娠した29歳の女性はマラウィ近郊の避難所で、その時の状況を語った。
「爆弾が爆発して、多くの人々が亡くなった」と彼女は語り、ムスリムの聖職者や子どもも犠牲となった、と付け加えた。
軍の当局者はこの件についての報告は受けていないと語った。ロイターも独自の確認は取れなかった。