アジアに迫るISISの魔手 フィリピン・ミンダナオ島の衝撃
数十年にわたり、イスラム主義の分離独立グループ、共産主義の反政府勢力、軍閥による混乱が続いてきたミンダナオ島は、ISのイデオロギーが根づきやすい土壌となっていた。カトリック教徒が主体のフィリピンで、マイノリティのムスリムが多く住む地域の1つがこの島であり、マラウィ市自体もムスリムが多数を占めている。
海賊が跋扈(ばっこ)するほぼ無法地帯の水域を経由して、マレーシアやインドネシアなどの国から戦闘員がミンダナオ島に流入することを防ぐのは、各国政府にとって至難の業だ。
米陸軍士官学校のシンクタンク「テロ対策センター(CTC)」は、最近のレポートの中で、ISが東南アジアの武装組織を利用して、同地域における自らのプレゼンスを強化・拡大しつつあると指摘する。カギとなるのは、ISがこの地域の古参ジハーディストとの関係をうまく維持できるかだとCTCはみている。
司令官を解任
マウテグループによる攻撃は、フィリピンのドゥテルテ大統領にとって、昨年6月に就任して以来、最大の難題となっている。大統領は自らの地盤でもあるミンダナオ島に戒厳令を敷いた。
フィリピン国防軍は今回の襲撃に不意を突かれた格好であり、マラウィ市奪還に苦戦している。3日時点では、まだ抵抗拠点の掃討に手こずっている。
また、マラウィに駐留する陸軍旅団の司令官ニクソン・フォルテス陸軍准将が5日、解任された。
軍広報官は、この解任はマラウィでの戦闘とは無関係だという。しかし、軍の情報提供者が2日、匿名を条件にロイターに語ったところによれば、フォルテス司令官が解任されたのは、軍情報部からイスラム主義戦闘員が集結しつつあると示唆されていたにもかかわらず、攻撃発生時に配下の兵力を市内に集めておかなかったことが理由だという。
攻撃発生のほんの数カ月前には、誘拐で知られる悪名高いイスラム主義武装組織「アブサヤフ」(「剣の父」の意)を長年率いてきたイスニロン・ハピロンの山岳拠点を治安部隊が攻撃したばかりだった。
イスニロン・ハピロンは2014年にISへの忠誠を誓い、他の組織をすばやくまとめ上げた。そのなかでも最も重要な存在が、マラウィの名家の出身であるオマル・マウテとアブドゥラ・マウテの兄弟が率いるマウテグループだった。
昨年6月に公開された映像では、シリアに拠点を置くマウテグループの指導者の1人が、東南アジア地域の支持者に対し、中東に渡航できないのであればハピロンのもとに参集するよう呼びかけた。ハピロンは昨年、東南アジアにおけるISの指導者に任命されている。
フィリピン軍によれば、ハピロンは軍による襲撃のなかで負傷した可能性が高いが、何とかマラウィに逃れ、そこでマウテ・グループと合流したという。
マウテグループ戦闘員が使っているソーシャル・メディア上のグループに投稿された声明によれば、同組織はマラウィからキリスト教徒、シーア派ムスリム、多神教の信徒を一掃したいと考えているという。また、賭博やカラオケ、いわゆる「出会い系」も禁止したいと表明している。