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焦点:米大統領はどこまで株安許容か、なお残る「トランプ・プット」期待

2025年04月08日(火)11時54分

4月7日、トランプ米大統領は自らの関税政策がもたらしている大幅な株安をこの先どこまで容認するつもりだろうか――。ウオール街で同日撮影(2025年 ロイター/Brendan McDermid)

Davide Barbuscia

[ニューヨーク 7日 ロイター] - トランプ米大統領は自らの関税政策がもたらしている大幅な株安をこの先どこまで容認するつもりだろうか――。投資家はこの点に関する手掛かりを必死で探り当てようとしている。最終的にトランプ氏が株価救済に乗り出す「トランプ・プット」の望みも全く消え去ったわけではない。

トランプ・プットは1期目時代の株式市場にとってはずっと大きな支柱となってきた。トランプ氏はしばしば、株高を自身の政策が成果を発揮している証拠として挙げ、1期目を通じてS&P総合500種は68%上昇して何度か最高値を更新。株価についてトランプ氏がツイートした回数は150回余りに達した。

ところが今回、トランプ・プット期待は後退が続き、少なくとも投資家の意見は、トランプ氏が株価急落を容認する方向に大きく傾いているとの見方に集約されつつある。トランプ氏が大統領に復帰した1月20日以降で、S&P総合500種とナスダック総合の下落率はそれぞれ15%強と20%強になっている。

エンジェルズ・インベストメンツのマイケル・ローゼン最高投資責任者は「関税や通商政策の全体的な構想はトランプ氏の精神の一部を成すものである以上、放棄されるとは思えない」と語り、トランプ氏に政策転換を促す痛みのレベルはまだはるか彼方にありそうだと付け加えた。

こうした中で投資家の間では、トランプ氏が2日に「相互関税」の詳細を発表したことで、本当にトランプ・プットはなくなったのか、それとも貿易相手との各種取引と関税の巻き戻しを通じていずれまた出現するのか改めて問題提起されている。

アンリミテッド・ファンズのボブ・エリオット最高経営責任者(CEO)兼最高投資責任者の場合、政策転換に至るまでなお売り局面が長く続くシナリオを描く。「株価が20─30%下落しなければ政策転換につながらない。だからこれまでの値下がりは十分とは言えない」という。

一方ベル・エア・インベストメント・アドバイザーズのパートナー、ケビン・フィリップ氏は「(トランプ氏が)大幅な株安を容認するとは思わない。彼は支持率に目を向けるだろうし、株安容認は政策課題全体を危険にさらす」と語り、さまざまな取引を成立させるか、軌道修正の理由を考え出す以外、出口はないとみている。

2020年の新型コロナウイルスのパンデミック発生時以来の規模となった足元の株安を巡っては、ソーシャルメディア上でトランプ氏が意図的に市場を壊し、米連邦準備理事会(FRB)に利下げを迫るとともに、中間層に買い場を提供したとの憶測まで出回っている。

トランプ氏は6日、首都ワシントンに向かう大統領専用機内で記者団に、わざと株価を急落させているわけではないが、これは米国の貿易赤字問題解決に必要な「薬」を服用した結果だと説明した。

同氏や側近らはかねてから、関税などの政策が短期的な痛みをもたらすとしても、結局は米国の製造業を復活させて成長を押し上げると主張している。

<自力対応は不可能>

しかし一部の投資家は、消費者信頼感低下や貿易戦争の激化、物価圧力増大といった要因のせいで、いくら今後プラスの材料が出てきたとしても、米経済が被る打撃は深刻で長期化する恐れがあると警鐘を鳴らす。

ボストン・カレッジの経済学者ブライアン・ベチューン氏は、関税が引き起こした混乱は、いくら米企業に耐性があっても自力で痛手を和らげることができないほど突然だったと指摘。「気球に多くの重りを取り付ければ、ドスンと地上に落ちてしまう」と解説した。

2日と3日にS&P総合500種が記録した下落率は10.5%で、2営業日ベースでは20年3月以来の大きさ。時価総額5兆ドル(約735兆円)近くが消し飛んだ。

<FRBも動けず>

FRBが市場を支える行動をするという市場の期待も打ちのめされている。

トランプ氏は4日、FRBのパウエル議長に利下げを求め、今が利下げの「最も適した時期」だと訴えた。しかしパウエル氏は同日、新たな関税は経済成長を鈍化させると同時に物価を押し上げる公算が大きいとして利下げを急がない姿勢を示し、株価の下げ率は5%を超えた。

ノムラ(ニューヨーク)の先進国市場チーフエコノミスト、デービッド・シーフ氏は「市場はなお多大な不確実性を消化しているところで、トランプ氏とパウエル氏が株価反発につながる助け船をすぐに出さないと明確に表明した事実も消化中に思える」と述べた。

物価が上昇すれば、以前の株安や経済悪化時にFRBが打ち出せた支援措置が使えなくなる恐れがある。これはFRBによる市場救済、いわゆる「FRBプット」が当面視界から外れることを意味する。

カーソン・グループのチーフ市場ストラテジスト、ライアン・デトリック氏は「FRBとトランプ氏のどちらが先に動くだろうか。FRBは現状の物価と雇用情勢を踏まえ、すぐには何もしないのが好ましいとの立場をはっきりさせている。何か(市場にとって)良いニュースを提示する点では、政治家たちが先に動かざるを得なくなりそうだとわれわれは考えている」と話した。

ロイター
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