性的欲望をかきたてるものは人によってこんなに違う
インターネットを使えば、ガーゲンの実験より、はるかに大規模な実験が可能となる。インターネットの世界は、ガーゲンの実験の小部屋にそっくりなのだ。素性のわからない何億もの匿名の人たちが巨大な暗い部屋に入っている。インターネットの世界なら、性的欲望を抑える必要もない。そんな世界で、人々はいったい何をやっているのだろうか?
ピーター・モーリー=スーターは10代のころ、マンガ作りを楽しんだ。そのころの新聞連載マンガ『カルビンとホッブス』の影響を受けたのだ。このマンガは、いたずら好きな6歳の男の子カルビンと、トラのぬいぐるみのホッブスが巻き起こす日々の騒動を描いたもので、家族で楽しめるマンガとして人気を博していた。ピーターが、自分に起きたできごとをもとにしてマンガのストーリーを考え、妹のローズがそれを絵にした。彼らの創作マンガの読者は、主にピーターの友人たちだったが、ピーターがウェブサイトに作品を投稿したこともあった。今では、ピーターはイギリスで、中等学校の教師になるための勉強をしている。マンガ作りは10代のうちにやめてしまった。もう作品のほとんどを思い出すこともできないが、ひとつだけ頭に残っている作品がある。
2003年、彼がまだシャイな16歳の少年だったころ、友人がカルビンとホッブスを描いたパロディマンガをメールで送ってきた。そのマンガでは、カルビンとホッブスがカルビンの母親と激しいセックスをしていた。ピーターは、「ものすごいショックを受けた」と言う。
彼はこう述懐する。「ネット上に、セックスの絵がいくらでもあるのは知っていました。でもカルビンとホッブスですよ。まいりましたね」。ピーターは、友人への返信用に一コママンガを描くことにした。そのときの気持ちをこう語っている。「カルビンとホッブスまでポルノになるのなら、もうどんなものだってポルノになると思いました」
ピーターが描いた一コママンガは、パソコン画面の前でショックを受け、顔をゆがめている彼自身を絵にしたものだ。黒一色の線画なので、いかにも素人の作品という感じで、それほど印象の強い絵ではない。しかしピーターがマンガにつけたキャプションは、当時の時代精神にぴったりはまり、人々の心をつかんだ。彼はこんなキャプションをつけた。「インターネットルール34 どんなものでもポルノになる」
ピーターは、一コママンガを画像共有サイトに投稿した。サイトに載ったマンガの絵はすぐに流れてしまったが、キャプションのほうはネット上でまたたく間に広まった。ピーターの言葉は、ネット上のコミュニティからコミュニティへと伝播しながら修正され、次のような表現で知られるようになった。「ルール34 人が頭に描けるものすべてに対して、オンラインポルノが存在する」。今では「ルール34」は、崇拝すべき名言として、たくさんのブログやユーチューブの動画、ツイッターのつぶやき、ソーシャルネットワーキングサイト(SNS)に掲載されている。「ルール34」という言葉が動詞として使われることも多い。「『アメリカンアイドル』の審査員席にいるポーラ・アブドゥルとサイモン・コーウェルをルール34しちまったぜ」と言えば、話が通じるのだ。人気ブログ「Boing Boing」が、「ルール34チャレンジ」と称して、たとえばブリトニー・スピアーズを犯すベートーベンといった奇抜なカップルのポルノを、ネット上で見つける早さを競うコンテストを主催したこともあった。
【参考記事】ロシアのポルノ閲覧禁止にユーザー猛抗議