アマゾンIDで他サイトでも買い物できるようにする思惑
名だたるハイテク大手が決済事業でしのぎを削るなか、アマゾンが見据えるのは?(撮影:尾形文繁)
ネットで買い物をする人にとって、それぞれのサイトでのユーザーネームやパスワードの管理ほど煩わしいものはないかもしれない。面倒なあまり、セキュリティは二の次で、すべて同じものを使っている人も珍しくないだろう。より多くのショッピングサイトで、共通のアカウントが使えたら――。そう考えているのは、ユーザーばかりではないようだ。
アマゾンは2007年に、他サイトでもアマゾンのアカウントを利用して買い物ができるID決済サービス、「Amazon Pay(アマゾンペイ)」を開始。日本でも2015年5月からサービスを始め、これまでに劇団四季や眼鏡大手JINSなど1000社以上のショッピングサイトが利用している。4月19日には、大手衣料品通販サイト「ゾゾタウン」が導入したことから、日本でも一気に利用機会が増える可能性がある。
ネット決済市場は、今後大きな成長が見込まれる市場の1つ。それだけに、老舗のペイパルやスクエアに加えて、グーグルやアップル、フェイスブック、楽天などハイテクのビッグネームが次々と独自のサービスを開始。事業者とその利用者を取り込むことで、それぞれの"経済圏"拡大を急いでいる。
利用者は使い慣れたサービスを好む
ショッピングサイトがアマゾンペイを導入することによる、サイト利用者にとっての最大のメリットは、なんといっても前述のとおり煩わしさがないことだ。アマゾン以外のサイトで買い物をするときでも、アマゾンのIDとパスワードを使えばいい。
もちろん、ショッピングサイト側は自社の決済システムを含め、利用者のニーズに合わせて複数の決済オプションを設けることが可能だ。が、「利用者にとっては『アマゾンでの経験』がショッピングのスタンダードとなっている場合が多く、慣れたサービスを好む傾向がある」と、アマゾンでID決済事業を統括するパトリック・ゴティエ副社長は話す。
アマゾンペイは、たとえば雑誌の定期購読やソフトウエアの利用など、サブスクリプション的な支払いに利用することも可能。ソフトウエアの場合は、毎年更新という場合も多いが、年1回しか利用しないサイトでIDやパスワードを思い出すのは至難の業だけに、アマゾンと同じものが使えるならば利用者にもメリットがある。将来的には電気代や携帯電話代、あるいは、スポーツジムや習い事の月謝などへの利用も考えられるだろう。
一方、事業者側にとってのメリットは大きく4つある。1つは、アマゾンの利用者を、自社サイトで取り込めること。つまり、新規顧客の獲得である。ショッピングサイトで気に入ったものを見つけても、新規登録するのが面倒で買わなかった、という経験がある人も少なくないだろうが、アマゾンペイを導入していればこのハードルは低くなる。