AV強要の実態に、胸を締めつけられ、そして驚かされる
本書に記された事実を確認する限り、一部のアダルトビデオ業者は間違いなく非道である。しかし、この程度の危機感しか持ち合わせていないというのはいかがなものか(ただし、強姦されたAさんと、「なんとなく」そうなることを容認してしまった子たちとの差は大きい)。
事実、著者は、騙されやすい子の共通点として「未熟で社会性がない」「気が弱くなかなか嫌といえない」「生真面目で律儀」「断っては悪い、なんとかしてあげたい、と思ってしまう」「タレントやモデルが憧れで、貧しい」といった点を挙げている。
でも、それらが言い訳にならないということを本人たちが理解できない限り、結局はどうにもならないのではないだろうか。
とはいえ、事情はどうあれ彼女たちのことを救済する必要があることだけは間違いない。だとすれば、私たちはなにをすればいいのか? 基本的には、"部外者"である私たちも、それぞれの立場から考えてみる。そこからはじめるしかないのかもしれない。
このような映像に一定の需要があることを考えると、なんという性の貧しさかと思う。
性の快楽の表現という、きわめてプライベートな事柄に対して、貧しいだの豊かだのと他者に価値評価されたくないとの意見もあろう。しかし、性の快楽を享受するには、重大な前提条件が必須である。他者の性の尊厳を脅かし、侵犯しない限りにおいて、という前提条件である。(235ページより)
本人たちの自覚の有無はさておいても、私たちが考えるべきはこの部分ではないだろうか? そして、私自身の読後感からいわせてもらえば、著者が被害のことをより明確に訴えたいのであれば、無防備さの見える女性たちよりもAさんのような事例をもう少し盛り込んでいたほうが、より適切だったのかもしれないとも感じる。もちろんAさんのような思いをする人は、少ないほうがいいに決まっているのだが。
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダヴィンチ」「THE 21」などにも寄稿。新刊『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)をはじめ、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)など著作多数。
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