AV強要の実態に、胸を締めつけられ、そして驚かされる
結果、Aさんは「応じないと学校に知らせるぞ」「親に知らせるぞ」と脅され、アダルトビデオの撮影を強要されるようになる。そしてDVDが発売された結果、大学内で"身バレ"してしまい、精神のバランスを崩していく。
盛夏に行われた最後の撮影は、アダルトビデオのなかでは定番で非常に人気のあるジャンル、輪姦しながら女性を思い切り凌辱するという内容だった。もちろんこれは演技ではなく、本当の性交行為、輪姦が行われるのである。(中略)
視聴者は、本当の性交行為、この場合は輪姦が行われていると承知し、期待して見ている。ただし、被写体の女性の合意のもとになされている撮影行為であり、犯罪ではなく、合法の映像であるという、視聴者と製作者の暗黙の共通理解を前提としている。真似事ではないホンモノの輪姦だけれども出演女性の合意の上だという論理には矛盾があるように思うが、その矛盾は無視される。(中略)合法だ、本人が同意している(からいいのだ)というエクスキューズが強力に働く。(30~31ページより)
著者と「ポルノ被害と性暴力を考える会」はAさんを救うべく尽力し、Aさんも著者たちを心のよりどころにする。が、最終的にAさんとは、ある時期を境に一切連絡がとれなくなってしまう。「生き延びていてほしいとひたすら願う」という著者の言葉には胸を締めつけられる思いだが、これがAVをめぐる現実なのかもしれない。
ただし、その一方で、本書を読み進めていくと多少の戸惑いを感じずにはいられない。というのも、Aさん以外の事例には疑問を感じざるを得ない部分があるのもまた事実だからだ。記述で確認する限り、Aさん以外の人たちはどうにも無防備すぎるように思えるのだ。
Dさんが言うには、マネージャーの説明にはわからない言葉がたくさんあったけれど、業界用語だからね、わかんなくてもいまは大丈夫、と少しだけ説明された。そして、ほとんどのことが消化されないまま、ただアダルトビデオに出演する人は"女優"なんだということだけをなんとなく理解した。(93ページより)
人通りの多い原宿の表参道で、三十代ぐらいのスカウトマンに声をかけられた。
「君、君、モデルに興味ない? ちょっとだけ参加すればすごく稼げるアルバイトがあるよ。」
せっかく東京に出てきたことだし、「すごく稼げるアルバイト」というのにも心を動かされて、面白そうだと思って男についていった。
近くの事務所に連れていかれた。小さい事務所だったがいかにも芸能界風な雰囲気だったという。
短期間で簡単に稼げるバイトがあると言われた。地方で定職に就いてはいたが、介護職で非常勤なので低賃金だ。一~二時間程度の撮影で三万円と言われれば心は動く。(111~112ページより)
世間を知らない中高生ならまだしも、大の大人がこの程度の感覚しか持ち合わせていないことには多少なりとも驚きを隠せない。そして、そこにも問題の一端があるということも、残念ながら否定できないのではないだろうか。