最新記事

BOOKS

AV強要の実態に、胸を締めつけられ、そして驚かされる

2017年5月30日(火)11時52分
印南敦史(作家、書評家)

結果、Aさんは「応じないと学校に知らせるぞ」「親に知らせるぞ」と脅され、アダルトビデオの撮影を強要されるようになる。そしてDVDが発売された結果、大学内で"身バレ"してしまい、精神のバランスを崩していく。


盛夏に行われた最後の撮影は、アダルトビデオのなかでは定番で非常に人気のあるジャンル、輪姦しながら女性を思い切り凌辱するという内容だった。もちろんこれは演技ではなく、本当の性交行為、輪姦が行われるのである。(中略)
 視聴者は、本当の性交行為、この場合は輪姦が行われていると承知し、期待して見ている。ただし、被写体の女性の合意のもとになされている撮影行為であり、犯罪ではなく、合法の映像であるという、視聴者と製作者の暗黙の共通理解を前提としている。真似事ではないホンモノの輪姦だけれども出演女性の合意の上だという論理には矛盾があるように思うが、その矛盾は無視される。(中略)合法だ、本人が同意している(からいいのだ)というエクスキューズが強力に働く。(30~31ページより)

著者と「ポルノ被害と性暴力を考える会」はAさんを救うべく尽力し、Aさんも著者たちを心のよりどころにする。が、最終的にAさんとは、ある時期を境に一切連絡がとれなくなってしまう。「生き延びていてほしいとひたすら願う」という著者の言葉には胸を締めつけられる思いだが、これがAVをめぐる現実なのかもしれない。

ただし、その一方で、本書を読み進めていくと多少の戸惑いを感じずにはいられない。というのも、Aさん以外の事例には疑問を感じざるを得ない部分があるのもまた事実だからだ。記述で確認する限り、Aさん以外の人たちはどうにも無防備すぎるように思えるのだ。


 Dさんが言うには、マネージャーの説明にはわからない言葉がたくさんあったけれど、業界用語だからね、わかんなくてもいまは大丈夫、と少しだけ説明された。そして、ほとんどのことが消化されないまま、ただアダルトビデオに出演する人は"女優"なんだということだけをなんとなく理解した。(93ページより)


 人通りの多い原宿の表参道で、三十代ぐらいのスカウトマンに声をかけられた。
「君、君、モデルに興味ない? ちょっとだけ参加すればすごく稼げるアルバイトがあるよ。」
 せっかく東京に出てきたことだし、「すごく稼げるアルバイト」というのにも心を動かされて、面白そうだと思って男についていった。
 近くの事務所に連れていかれた。小さい事務所だったがいかにも芸能界風な雰囲気だったという。
 短期間で簡単に稼げるバイトがあると言われた。地方で定職に就いてはいたが、介護職で非常勤なので低賃金だ。一~二時間程度の撮影で三万円と言われれば心は動く。(111~112ページより)

世間を知らない中高生ならまだしも、大の大人がこの程度の感覚しか持ち合わせていないことには多少なりとも驚きを隠せない。そして、そこにも問題の一端があるということも、残念ながら否定できないのではないだろうか。

【参考記事】フィリピンパブの研究者がホステスと恋愛したら......

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中