最新記事

犯罪

インドの性犯罪者が野放しになる訳

2017年4月11日(火)11時20分
ジェーソン・オーバードーフ

インドでは幼い子供の性犯罪被害も急増している(8歳の被害少女) GETTY IMAGES

<幼児や乳児まで狙う性犯罪が都市人口の増加とともに急増。常習犯を有罪にできないインドの刑事・司法制度の不備が事態を悪化させる>

1月半ば、インドの首都ニューデリー警察が少女らへの性的暴行容疑でスニル・ラストーギ(38)を逮捕したときのこと。5人の子供の父親でもある彼は、ぞっとする供述をした。この十数年間に500人以上の少女に性的暴行、もしくは性的暴行未遂を働いたというのだ。

その数にどれほど信憑性があるかは明らかでないが、当局は04年以降、同様の容疑でラストーギを15回以上逮捕している。だが一度も有罪判決を受けていない。

彼の今回の供述についてはまだ精査中だが、少なくとも3州にわたる58件ではその容疑が特定された。いずれの事件も、ラストーギの特徴的な赤と白のシャツを被害者が記憶していた。

ラストーギの事件はインド社会に衝撃を呼んだかもしれないが、彼が一度も罰せられていないことは人々にとって意外ではなかったようだ。ここ数年、はびこる貧困と急速な社会の変化、お粗末な司法システムのせいでインド各地で性的暴行事件が増加している。

12年12月、ニューデリーでバスに乗った女子学生が集団レイプされて殺害される事件が世界を震撼させて以来、インドは性的嫌がらせやストーカー行為、盗撮などの犯罪に対する法律を強化してきた。多くの性犯罪の厳罰化も進んでいる。性行為が合意の上であると主張する場合は、容疑者側が立証責任を負うようにもなった。

だが、状況が改善している様子はない。成人や10代の被害に加え、インドの地元メディアではほぼ毎日、幼児や乳児が被害者となった信じ難い性的暴行事件が報じられている。

ラストーギが犯罪を重ねながら、のうのうと暮らしていたことに対してインド中で怒りが高まるなか、活動家や政治家、警察がついに動きだした。レイプに対するインド社会の態度を変革し、常習犯を投獄できない司法システムを改革しよう、と。

多くの人々が問題の根幹に挙げるのが、都市化とそれに伴う社会の変化だ。最新の国勢調査によれば19991~2011年の間に、都市部の人口は全人口の25%から40%近くへと急増。デリー首都圏の人口は2700万人から4600万人へと膨れ上がった。新たな移住者は水道や下水の整備も、警官の巡回もないスラムに暮らす。

【参考記事】DV大国ロシアで成立した「平手打ち法」の非道

過密で多くが裁判待ち

女性が控えめな服装をし、顔をベールやスカーフで覆う人も多かった田舎での暮らしに慣れた男たちは、都会に来て見たこともないほど開放的な性の文化に直面する。一方で移住者たちは、自分の子を犯罪者から守りたくても、身近で気を配ってくれる親や親戚はいない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:新年度も超長期債に需給不安か、日銀利上げ

ビジネス

保有国債、金融調節上の必要生じた場合の売却可能性ま

ビジネス

日経平均は小幅に3日続落、様子見姿勢強まり方向感出

ビジネス

午後3時のドルは149円後半、年度末控え円軟化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    ロシア軍用工場、HIMARS爆撃で全焼...クラスター弾が…
  • 5
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 6
    ドジャース「破産からの復活」、成功の秘訣は「財力…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    トランプ版「赤狩り」が始まった――リベラル思想の温…
  • 10
    インド株から中国株へ、「外国人投資家」の急速なシ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 7
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中