インドの性犯罪者が野放しになる訳
性犯罪がなかなか表面化しないのはどの国でも共通の問題だが、インドの場合はより深刻だ。この国ではレイプは社会的不名誉を意味する。多くの被害者や家族は事件が明るみに出て後の縁談に影響することを恐れる。15年に警察に報告された未成年への性犯罪は4万件以下。それに対してアメリカでは、年間6万3000件が報告されている。
インドで性犯罪被害を訴えても、裁判までいくことは少ない。「たとえ小児性愛者が逮捕されても、短期間の拘束で釈放される。捜査の手が足りなかったり、証拠が不十分だったりするためだ」と、あるデリーの警部は匿名で明かす。
法医学上の物証を収集・保存する訓練を受けた警官はほとんどいない上、証拠品を適切な状態で保存し移送するための機材を備えた警察署はほぼ皆無だと、デリー高等裁判所の弁護士ラジンダー・シンは言う。「そのせいで、科学的証拠によって有罪を下すチャンスが失われる」
インドの司法システムも事態を悪化させている。裁判までたどり着いたレイプ事件の約3分の1で有罪判決が出ているが、起訴までに10年以上かかることも珍しくない。司法システムが過密状態だからだ。インド国家犯罪記録局によると、15年では常時平均して80~90%の性犯罪事件が裁判待ちの状態だった。
こうした要素が積み重なり、ラストーギは10年以上にわたり新たな少女暴行事件を起こし続けたとみられている。警察の記録によれば、彼は04~15年の間に未成年の少女を誘拐した容疑で少なくとも2回逮捕、拘束されたが、裁判待ちの状態だった。12年に成立した厳格な性犯罪児童保護法により、彼は昨年2月に再逮捕され約6カ月拘束されたが、またも保釈されていた。
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判決前でも犯罪者登録
ラストーギのような事例があるからこそ、アメリカやイギリスのような全国レベルの性犯罪者登録を支持する声が多く上がっている。マネカ・ガンジー女性・児童育成相も肯定的で、さらに判決待ちの被告をデータベース化することも支持している。
だがこれは、「何人も刑事裁判で有罪が確定するまでは無罪として扱わなければならない」という推定無罪の原則に反する、との批判の声もある。だがガンジーは、裁判に何年もかかり、有罪判決率が非常に低い現状を考えればデータベースは必要だと主張している。