最新記事

犯罪

インドの性犯罪者が野放しになる訳

2017年4月11日(火)11時20分
ジェーソン・オーバードーフ

性犯罪がなかなか表面化しないのはどの国でも共通の問題だが、インドの場合はより深刻だ。この国ではレイプは社会的不名誉を意味する。多くの被害者や家族は事件が明るみに出て後の縁談に影響することを恐れる。15年に警察に報告された未成年への性犯罪は4万件以下。それに対してアメリカでは、年間6万3000件が報告されている。

インドで性犯罪被害を訴えても、裁判までいくことは少ない。「たとえ小児性愛者が逮捕されても、短期間の拘束で釈放される。捜査の手が足りなかったり、証拠が不十分だったりするためだ」と、あるデリーの警部は匿名で明かす。

法医学上の物証を収集・保存する訓練を受けた警官はほとんどいない上、証拠品を適切な状態で保存し移送するための機材を備えた警察署はほぼ皆無だと、デリー高等裁判所の弁護士ラジンダー・シンは言う。「そのせいで、科学的証拠によって有罪を下すチャンスが失われる」

インドの司法システムも事態を悪化させている。裁判までたどり着いたレイプ事件の約3分の1で有罪判決が出ているが、起訴までに10年以上かかることも珍しくない。司法システムが過密状態だからだ。インド国家犯罪記録局によると、15年では常時平均して80~90%の性犯罪事件が裁判待ちの状態だった。

こうした要素が積み重なり、ラストーギは10年以上にわたり新たな少女暴行事件を起こし続けたとみられている。警察の記録によれば、彼は04~15年の間に未成年の少女を誘拐した容疑で少なくとも2回逮捕、拘束されたが、裁判待ちの状態だった。12年に成立した厳格な性犯罪児童保護法により、彼は昨年2月に再逮捕され約6カ月拘束されたが、またも保釈されていた。

【参考記事】女性が怯えて生きるインドのおぞましい現実

判決前でも犯罪者登録

ラストーギのような事例があるからこそ、アメリカやイギリスのような全国レベルの性犯罪者登録を支持する声が多く上がっている。マネカ・ガンジー女性・児童育成相も肯定的で、さらに判決待ちの被告をデータベース化することも支持している。

だがこれは、「何人も刑事裁判で有罪が確定するまでは無罪として扱わなければならない」という推定無罪の原則に反する、との批判の声もある。だがガンジーは、裁判に何年もかかり、有罪判決率が非常に低い現状を考えればデータベースは必要だと主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏が訪中、テスラ自動運転機能導入へ当局者と協

ワールド

ハマス代表団、停戦協議でカイロへ 米・イスラエル首

ワールド

バイデン氏「6歳児と戦っている」、大統領選巡りトラ

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中