最新記事

テクノロジー

光合成する電池で温暖化をストップ

2017年2月6日(月)09時40分
ヒマンシュ・ゴエンカ

Yasuhide Fumoto-Digital Vision/GETTY IMAGES

<太陽光を使って大気中の二酸化炭素を燃料に変換する未来の電池は、温室効果ガス削減の切り札となるか>

太陽光などの光エネルギーを使って、水と大気中の二酸化炭素(CO2)から炭水化物や酸素を生み出す光合成。植物が持つこの夢のような機能を人工的につくり出せたら、地球温暖化を食い止める救世主になるかもしれない――そんな期待を集める新技術が「人工光合成」だ。大気中のCO2と水、太陽光を使って貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成する。

米イリノイ大学シカゴ校(UIC)の科学者たちは昨年、人工光合成の電池の開発に成功した。日光を利用して燃料を生産する点では太陽光発電と同じだが、決定的に違うのは植物の葉のように大気中のCO2を取り除く点だ(ただし光合成と違って酸素は生み出さない)。

「化石燃料からエネルギーを生み出し、温室効果ガスを排出するという持続不可能な一方通行ではない。逆に太陽光を使って大気中のCO2を燃料に生まれ変わらせる」と、UICのアミン・サレヒコージン助教(機械・産業工学)は語った。

UICのウェブサイトによれば、これらの電池を人工の「木の葉」として発電所で利用すれば「エネルギー密度の高い燃料を効率的に生産することが可能」だ。生成された合成ガスは「直接燃焼させることも、ディーゼルやその他の炭化水素燃料に変換することもできる」。

【参考記事】CO2からエタノールを効率良く生成する方法、偶然発見される

CO2の温室効果は特に悪質

CO2は人間の活動が生むガスの中でも大気中に長くとどまり、地球の周りに熱を閉じ込める作用に大きく影響する。温室効果ガスとしては特に悪質だ。

これまでもCO2を燃料に変換する方法はあったが、その過程では銀などの貴金属を触媒として利用しなければならなかった。一方、UICの電池はナノ構造化合物のセレン化タングステンを使用する。これは貴金属のおよそ20分の1の価格で、かつ化学反応を従来の1000倍近い速度で促す。

将来的にはこの新技術が太陽光発電の施設などで活用されることが期待されている。サレヒコージンは、大気が主にCO2で構成されている火星でも利用できると考えている。

UICの研究には全米科学財団(NSF)と米エネルギー省が資金提供を行っている。NSFのプログラムディレクター、ロバート・マケーブはUICが開発した電池について「力学的な洞察と優れた電気化学工学を組み合わせ、(人間の)大きな課題に目覚ましい進展をもたらした」と称賛する。
温暖化に懐疑的なドナルド・トランプ新大統領も、この新技術は認めざるを得ないだろう。

[2017年1月31日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反落、米景気不安で一時3万6000円割れ

ワールド

モスクワに過去最大の無人機攻撃、1人死亡 航空機の

ビジネス

スイスが過剰規制ならUBSは国外撤退も、銀行協会が

ワールド

米でイスラム教徒差別など増、報告件数が過去最多=権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 2
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 3
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 4
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 5
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 6
    「中国の接触、米国の標的を避けたい」海運業界で「…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    「汚すぎる」...アカデミー賞の会場で「噛んでいたガ…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 8
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中