【対談(前編):冷泉彰彦×渡辺由佳里】トランプ現象を煽ったメディアの罪とアメリカの未来
女性大統領誕生への熱気は?
――ヒラリーが当選すれば初の女性大統領が誕生する。しかし現状ではその熱気はあまり感じられないのでは?
【渡辺】年配の女性たちはヒラリーに共鳴しているが、若い年代の女性は違う。アメリカで女性が参政権を得たのは1920年だが、年配の女性たちは、それ以降も続いた学校や職場での女性差別を経験してきた。それだけにここまで這い上がってきたヒラリーに、自分の姿を重ねてもいる。
しかし(バーニー・)サンダースを支持した若い世代の女性はまったく考え方が違う。彼女たちは、大学までの教育現場で女性差別を感じたことはないし、自分よりも前の世代が頑張ってこの環境を築き上げてきたとは考えていない。ありがたい、とも感じていない。そうした女性の世代間のギャップは、今回取材を通じてひしひしと感じた。
【冷泉】アメリカ社会では、まだまだ企業社会、家庭などで陰湿な形での男尊女卑は残っている。2008年の大統領選(オバマとヒラリーが民主党候補を争った)では、ヒラリーを女性大統領にしたいという盛り上がりもあった。しかし今回は渡辺さんの言う「新しい世代」が有権者として加わり、結果として「初の女性大統領を」という熱気は薄まってしまったのではないか。
【渡辺】民主党予備選を取材する中で、若い男性がヒラリーやヒラリー支持の女性議員に対して非常に差別的な発言をしているのを見聞きした。こうした若年男性層の女性差別的な傾向はネットでも見られたが、今までの選挙では経験したことがない事態だ。同じことをしても、男性議員なら許されるのにヒラリーは許されずに非難される、そういった風潮があったことは事実だ。
<参考記事>「オクトーバー・サプライズ」が大統領選の情勢を一気に変える
「オバマ政権の継承」は信任されるか
――今回の大統領選は「オバマ政治」を継承するヒラリーを信任するか、しないかという選挙でもあったのでは?
【渡辺】これまでの選挙では、いわゆる「浮動票」は中道だった。しかし今年の選挙では二大政党に属さない人も、極端に右か左にシフトしたと言われている。オバマの8年で、暮らしが良くならなかったと悲観的に感じた人々は、「中道ではダメだ」と判断したということだろう。実際には8年前に比べて景気は良くなっているし、失業率も低下しているのだが。共和党が牛耳る議会が、異常とも言える妨害を行い、オバマ政権が実績をアピールできなかったのはつらいところだ。
【冷泉】オバマの政策は、理念的には左だが現実の政策は中道。それはリーマン・ショック以降の不況から景気を回復させ、そしてイラクとアフガニスタンの戦争の「後始末」も必要だったから。前回と前々回(08年と12年)の大統領選では、それでも有権者はオバマの理念に対して投票した。しかし今回、有権者があらためてヒラリーの「中道実務主義=リアリズム」を信任するかどうか――ヒラリーにとっては非常に厳しい選挙になった。
(後編に続く)
<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>