フィリピン、ドゥテルテ大統領が仕掛ける麻薬戦争「殺害リスト」に高まる懸念
<地域が名前を提供>
警察が各地区で麻薬密売人・常用者を特定するうえで重要な支援を提供しているのが、バランガイ麻薬撲滅行動委員会(BADAC)である。
各BADACは、委員長を兼任するキャプテンが選んだ6─10人の委員で構成される。教師や教会関係者、青年指導者、その他の市民団体のメンバーなどである。
各BADACは、警察が「麻薬関係者」と呼ぶ人々、つまり常用・密売の容疑者の名前を提供する。そのほとんどは微罪だ。警察によれば、その後、全国規模の麻薬対策・情報機関担当者との協議を経て、これらの名前を「確認」するという。警察が独自に名前を追加することもある。
1998年に初めて政府により創設されたBADACは、当初、毎月招集されることになっていたが、多くのBADACは何年にもわたってほとんど開催されず、机上の存在と化していた。ドゥテルテ大統領は、単にBADACを復活させるだけでなく、それを麻薬撲滅作戦の要の位置に据えたのである。
ドゥテルテ大統領は、彼が22年間にわたって市長を務めたダバオ市において麻薬撲滅作戦を全国に先んじて推進していた。
人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの2009年の報告書によれば、ダバオ市では、バランガイの首長と警察が同じようなリストを作成。これを基にして、数百人もの麻薬密売の容疑者、軽犯罪者、ストリートチルドレンが暗殺部隊によって殺害されたという。ドゥテルテ大統領は、これらの殺害のいずれについても関与を否定している。
<乱用されやすいシステム>
当局者は、容疑者リストは恣意的な殺害のためのリストではないと話している。
麻薬戦争による殺人のうち、その4分の1以上が発生したマニラ首都圏を地域を担当する警察広報官であるキンバリー・モリタス氏は、同地域における1万1000名の容疑者リストは、「情報機関により繰り返し検証が行われている」と語る。
人権擁護団体や一部の当局者からは、このプロセスは乱用されやすいという批判が出ている。
フィリピン人権委員会のカレン・ゴメスダンピット委員は、リストには「密売人どころか、麻薬常用者ですらない」人の名前まで含まれていると指摘。「誰かに恨みを抱いていて銃を持っている人に、相手を殺しに行くことを促すような環境だ」と語る。