フィリピン、ドゥテルテ大統領が仕掛ける麻薬戦争「殺害リスト」に高まる懸念
警察はロイターの取材に対し、容疑者リストの機密は保持されていると話している。だが、警察が麻薬関連容疑者の家を訪問して素行を改めるよう促す、いわゆる「訪問と説得」作戦が行われている以上、リストに掲載されていることは世間に知られてしまう。
バランガイの会合において麻薬密売人・常用者に警察への「自首」を促すこともあり、ここでもやはり情報は公開されてしまう。彼らの名前はリストに追加されるのだ。
これは大量検挙のプロセスと似ている。いわゆる「自首者」は警察による尋問を受け、取引のある密売人や仲間の常用者について聞かれる。ここで得られた情報は、他の麻薬関連容疑者を特定するために活用できる。自首者の名前はその後全国規模のデータベースに追加されるので、他のバランガイに転居しても監視される可能性がある。
<「変わろうとしていた」>
元バランガイのキャプテンだったゲバラ氏は、輪タク運転手セレスティーノさんの殺害を回避しようと努めたという。「彼は容疑者リストに載っていたから、危険な立場にあった」と彼は言う。
セレスティーノさんは殺害される3日前、警察とバランガイ職員が主催する3時間の「麻薬啓発」セミナーに出席していた。「変わろうとする彼の意志の現れだった」とゲバラ氏は言う。
セレスティーノさんの4人の子どもの1人であるジョンパトリック・セレスティーノさん(17)は、身震いしながら父親が亡くなった夜の記憶を語ってくれた。
午後9時頃、犬たちが吠え始めた。ドアのところに武装した男たちがいて、ジョンパトリックさんに携帯電話に表示された写真を見せ、「これは君の父親か」と尋ねた。
彼が「そうだ」と答えると、男たちは2階に駆け上がり、セレスティーノさんが隠れていた小部屋のドアを蹴破ったという。
彼らに続いて部屋に入ったジョンパトリックさんによると、「男たちは『シャブはどこだ、シャブはどこだ』と叫び続けていた」という。「シャブ」とは、習慣性が非常に高いドラッグである結晶メタンフェタミンの現地名で、フィリピンに広く出回っている。
ジョンパトリックさんは男たちに、父親は丸腰だといい、撃たないでくれと懇願した。だが銃を持った男の1人が室内に向けて3発発砲し、父親が苦痛に呻く声が聞こえた。
男たちはジョンパトリックさんにその場を離れるよう命じ、彼が1階に駆け下りると、さらに5発の銃声が聞こえた。
警察は、セレスティーノさんが22口径の回転式拳銃と「シャブ」の小袋3つを所持していたと発表した。