「加工肉に発がん性」WHO発表が招いた混乱の舞台裏
IARCに19年間勤め、遺伝学と疫学のチームを率いたパオロ・ボフェッタ氏は、同機関を「今でも強く支持」すると述べたうえで、そのやり方は時に「科学的な厳密さ」に欠けると話す。なぜなら判断において、科学者は、自身や同僚の研究の見直しを余儀なくされることがあるからだ。
批判に対し、IARCは断固反論する。同機関で分類プログラムを率いるクルト・ストライフ氏は、どのように発がん性リスクを評価しているのかとの質問に対し、「これはまさに考え得る最強のプロセス」だと答えた。
IARCのクリストファー・ワイルド所長も複数の科学誌で反論。1誌に対しては書簡で、分類に携わる科学者たちは「ヒトのがんの原因を突き止め、病気予防に貢献することで、公衆衛生を向上させたいという強い願いによって奮起している」と語った。
がん対策と世界の健康問題を専門とする英ロンドン大学キングス・カレッジのリチャード・サリバン教授は、いかなる混乱もIARCの役割に対する誤解がまん延しているせいだと指摘。「IARCは純粋に科学を行うための機関であり、それはそれでいいのだが、純粋な科学と、政策や公衆衛生に向けたメッセージとの間に乖離(かいり)がある。そこに問題が生じる」と述べた。
加工肉とたばこが同じ分類
IARCは専門家を集め、すでに存在する科学的証拠を見直し、物質や行為を発がん性の度合いに応じて5つに分類している。
IARCの分類が何を意味するかは誤解を受けることもある。IARCは「危険」、つまり、物質や行為が何らかの形でがんを引き起こす可能性をめぐる証拠の強さを評価するとしている。通常レベルのヒトへの暴露量や消費量は考慮されていない。要するに、何かによって、ヒトががんになる「リスク」や可能性を評価しているわけではない。
例えばIARCは、プルトニウムやアルコールによってがんになる相対的なリスク水準について見解を示していない。この2つの発がん性について明らかな証拠があると言っているだけだ。そのため、発がん性が認められる物質として、どちらも「グループ1」に分類されている。
米アルベルト・アインシュタイン医学校のがん疫学者ジェフリー・カバト氏はIARCを公に批判しており、同機関の分類は人々に「危害」を加えていると話す。
「皆が知りたいのは、健康に明らかな影響を及ぼすであろう身の回りの化学物質は何か、ということだ。現実的ではない状況下で影響があるかもしれないというような机上の空論ではない」と同氏は指摘する。