最新記事

食品

「加工肉に発がん性」WHO発表が招いた混乱の舞台裏

2016年4月24日(日)08時28分

 ストライフ氏は「正当な理由により、研究について最も知っている人々は、それまでにその研究にかかわってきた人々だとの強い信念がIARCにはある」と話した。

 ストライフ氏はIARCの規則上、「筆者や関連のある同僚」は自らが発表した研究について直接評価することはできないと述べた。そして、「擁護などが許容されない」環境下で、20人から30人が議論に参加していることから、中立性が担保されていると話した。

 タローン氏はロイターの取材に対し、全ての専門家が分離され、独立しているとするIARCの前提は「反科学的とは言わないものの、ナイーブだ」と述べた。「利己心や評判、出世主義に基づく先入観の問題がないと主張するのは馬鹿げている。邪悪な動機とは全く関係ない。それは単に人間の本能だ」

 タローン氏や他の批評家は、IARCが潜在的な利害対立の対処の仕方で首尾一貫していないと指摘し、携帯電話から放出される放射線の研究をその一例に挙げた。

 IARCは2011年6月、携帯電話からの放射線が「おそらくがんを誘発する」と結論づけた。それは、携帯電話を、鉛とクロロホルムと同じカテゴリーに位置づけるものだった。

赤肉の評価

 IARCの研究グループの会合には、「関連性があり、科学的な信用のある」オブザーバーが招待された。しかし、彼らは守秘義務を負わされ、議事進行について議論してはならないことになっていた。ストライフ氏は、彼らの反対意見や議論が承諾なしに外部に報じられないことによって、科学者たちが率直に話せるようになると語る。

 2015年に赤肉・加工肉の研究グループにオブザーバーとして招待された食物と動物の専門家は、ロイターの取材に匿名で応じ、科学的な証拠を審査する専門家パネルが、あたかも特定の結果を狙っているようだったと主張する。

 この評価で、IARCは、リスクではなく、その危険性について評価するという通常の権限を超えてしまった。IARCは、赤肉・加工肉製品を食べるリスクについて具体的な警告を出した。

 例えば、加工肉を毎日50グラム食べると、結腸がんを発達させるリスクが18%増えるとIARCは指摘。前述のオブザーバーはロイターの取材に対し、これらのデータが「一晩でどこからともなくやってきた」ように見えると話した。

 オブザーバーは「科学は高い水準の厳粛さをもって審査されると期待していた。しかし10日過ぎて、科学的な視点からみて、私は本当に大変なショックを受けた」と話した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中