欲と機転で金融危機をぶっ飛ばせ
08年の住宅バブル崩壊を予見した男たちを描く『マネー・ショート』は勉強にもなる金融コメディー
金融ゲーム バウム(中央左)は自らの成功の陰で国が経済危機を迎えることに悩む © 2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
俺をただの猟犬と思って、ちゃんと説明してくれ!
08年秋の金融危機の背景を描いた映画『マージン・コール』(11年)で、途方に暮れた投資銀行家が発した悲鳴だ。金融市場の仕組みについては猟犬並みの知識もない観客は、もちろん大笑いした。
しかし同じテーマの新作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のアダム・マッケイ監督は、もっと人間的にこの危機を扱う。アメリカの住宅バブル崩壊から金融危機が連鎖的に世界に広がったプロセスを解き明かし、かつ笑わせてくれる。
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観客の知性を重んじる姿勢が魅力的なこの映画は、マイケル・ルイスのノンフィクション『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』(邦訳・文春文庫)が原作。08年の金融危機で自分たちの金に何が起きたのかをアメリカ人は理解できるし、理解するのが道徳上の義務でもあるという前提に立って、話は進む。
「道徳上の義務」と「笑い」は大の仲良しとは言えないが、おバカなコメディー『俺たちニュースキャスター』で知られるマッケイは正義の怒りと爆笑を絶妙にミックスした。
登場人物の1人ジャレッド・ベネット(ライアン・ゴズリング)は、国や企業がデフォルト(債務不履行)に陥った場合に巨額の保険金を受け取れる金融商品「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」を、ジェンガの積み木を使って顧客に説明する。からくりが分かるにつれ、観客の怒りは募る。金融機関はろくに審査もせず、返済能力の低い「サブプライム層」に高金利の住宅担保ローンを貸し付け、それを証券化し、優良な金融商品と称して無邪気な投資家に売り付けていた。
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『マネー・ショート』ではこれを詐欺と見抜いた数人の男たちが住宅市場の破綻を予見し、金融機関とCDSの契約を結んで「大逆転」をもくろむ。その複雑な経緯が、猟犬どころかプードル程度の知識しかない筆者のような人間にも分かるほど明快に描かれている。
狂乱の金融界の正義は
冒頭、ドイツ銀行に勤めるベネットがナレーションで主な登場人物を紹介する。本人も認めるとおり、ベネットは正義の味方どころかデフォルトを荒稼ぎの好機と見なす遊び人だ。