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現地取材

ウクライナ紛争の勝者はどこに?(前編)

2014年12月22日(月)12時40分
オーエン・マシューズ(元モスクワ支局長)

 ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国が結成したノボロシア(新ロシア)人民共和国連邦の新しい旗もある。デザインはアメリカの南北戦争時代の南部連合旗に似ている。 

 ボタ山や炭田の縦穴坑道の掘削装置が点在する平坦な土地を過ぎると、いよいよドネツク市だ。市内は不気味なほど人の気配がない。戦争の前は人口100万を超える豊かな都市だったのに。大通りの巨大な看板には4月のコンサートの広告が貼ったままで、はがれかかっていた。

 建前上、今は停戦中のはずだが、砲撃は続いていた。ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領が停戦協定に署名したのは9月中旬のことだった。

 だが、それから数週間たってもドネツクでは大砲の音が響き渡っていた。ドネツクの空港を占拠するウクライナ軍を、親ロシア派勢力が激しく攻撃している。ウクライナ軍も報復に、ドネツク市内に砲弾とミサイルの雨を降らせていた。

 空港の地下にはソ連時代の壕とトンネルの迷路がある。集中砲火がひどいとき、空港を守るウクライナ兵はそこに避難するらしい。遠くから見ると、ガラスと鉄でできた優雅な空港ビルは秋雨の霧と銃煙の煙にかすんで見えた。

 ドネツクの州庁舎は、周囲を圧倒する巨大な建物だ。玄関の突き出たコンクリート屋根の下に数十人の市民が並んでいた。親ロシア派勢力の司令官は請願者の話を1人ずつ聞き、尊大な態度で命じる。「それでは210号室に行って、順番待ちの名簿に記入しなさい」「まだそれは対処していない。来週、もう一度来なさい」

24日公開の「ウクライナ紛争の勝者はどこに?(後編)」に続きます。

[2014年12月16日号掲載]

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