素人を「錦織圭」に育てる脳アプリ
仕事量や成績も追跡可能
脳波を「科学レベルで読み取り、バッテリーは5日間持続するウェアラブル装置を作ることができる」と、テキサス州のアンコディン社のピーター・ボナンニCEOは言う。同社は国防総省の防衛先端技術研究計画局(DARPA)と協力し、脳波測定装置を開発中だ。
同時に、プレーそのものの膨大なデータについても研究が進められてきた。NBA(全米プロバスケットボール協会)では試合をビデオで追跡し、個々の選手の走る速度やボールを持つ回数などをはじき出す。
普通の職場なら、従業員の仕事量や成績をソフトウエアで絶えず追跡することが可能だ。つまり、仕事能力の高いときの脳や体の状態を特定することが可能になりつつある。次のステップは、その状態をいつでも再現できる方法を割り出すことだ。
約10年前、DARPAは脳科学を実際の現場に応用する「実用神経科学」に投資しだした。05年以降、この研究は神経科学者のエイミー・クルーズが担当している。彼女が主に探求するのは2つの疑問だ。
1つは、プロの脳波には測定可能で明らかに際立ったパターンが存在するのか。2つ目は、それを素人に応用して短期間にパフォーマンスを向上させることができるのか、というものだ。
クルーズは射撃選手を対象に実験を行った。プロの射撃選手に脳波モニターを装着し、引き金を引く直前の脳波に共通するパターンを見つける。最高の状態にあるプロ選手は、自らを完全なリラックス状態に導く方法を熟知している。それは脳の信号にも表れ、心拍は減速する。
次にクルーズは、素人を2つの集団に分け、片方のグループに脳波モニターを装着。彼らの脳波がプロの脳波と同様の状態になった瞬間、引き金を引くように指示を出す。彼らの射撃技術は、もう一方の集団に比べて2・8倍のスピードで上達した。
これで2つの疑問はどちらも明らかになった。プロは他に比べて明らかに秀でた脳波パターンを有しており、ひとたびそれを特定できれば、素人の能力向上に応用することも可能だ。次いでに言えば、他のプロをさらに強くすることも。