最新記事

シリア

激戦地ホムスの惨劇はどこまで「真実」か

2012年5月14日(月)14時25分
マイク・ギグリオ

 戦闘が激化してプロのジャーナリストの取材が困難になると、VJたちの役割はますます重要になった。そのため政権側は、彼らのリポートの信頼性を傷つけようと必死になっている。

 先日もニューヨーク・タイムズ紙のブログに、欧米のメディアから「ホムスの声」と呼ばれる23歳のスターVJ、ダニー・アブドル・ダイエムに対する攻撃の例が紹介されていた。

 それによると、何者かがツイッターの偽アカウントを作ってダイエム本人に成り済まし、「宗派対立をあおるためにやっている」と思わせるつぶやきをしてダイエムの評判を落とそうとしたという。イスラエルの武力介入を画策しているように見せ掛ける書き込みもあった。

 アサド政権が残虐な弾圧を続けているのは、紛れもない事実だ。VJたちに対する政権側の中傷や攻撃を真に受ける人間もほとんどいない。それでもテラウィがタイヤを燃やした一件は、ジャーナリストに深刻な問いを投げ掛ける。明らかに反体制側寄りのVJたちが作成した映像リポートを、どこまで信頼していいのか。

 CNNの人気記者アンダーソン・クーパーは先日、ダイエムが映像を脚色しているという説の嘘を暴く特集を組んだ。『チャンネル4ニュース』のネビン・マブロ副編集長はこう言う。「報道機関は半年前から彼らの映像に頼ってきた。でも連中は(プロの)ジャーナリストじゃない。彼らには発信したいメッセージがあるんだ」

 アメリカのNGO「ジャーナリスト保護委員会」のダニー・オブライエンは、他の情報源と同様にVJたちもある程度まで疑ってみるべきだと警告する。戦闘が長引き、「情報戦」が激化している場合は特に注意が必要だと、オブライエンは言う。

「暴力がエスカレートしているのと同じように、宣伝工作活動もエスカレートしている。その点はどちらの側も同じだ」

弾圧の恐怖を強調する映像を選別

 アサド政権は強力な宣伝工作機関を持ち、ホムスなどへの外国人記者の立ち入りを阻止する力もある。この事実がVJたちを追い詰めている面もある。

 ホムスで彼らに同行取材したマニの話では、実際に目撃した「演出」はタイヤを燃やした一件だけだった。それ以上に問題なのは、VJたちが見せたい映像を選んで流していることだと、マニは言う。

 アサド政権が反体制派を武装した「テロリスト」と決め付けているため、VJたちは政権側との戦闘の主力になっている自由シリア軍(FSA)のメンバーを映したがらないと、マニは指摘する。マニがFSAを撮影するのも嫌がったという。

「彼らの投稿する映像が真実ではないとは言わない。でも、あの映像は選別されたものだ」と、マニは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中