激戦地ホムスの惨劇はどこまで「真実」か
戦闘が激化してプロのジャーナリストの取材が困難になると、VJたちの役割はますます重要になった。そのため政権側は、彼らのリポートの信頼性を傷つけようと必死になっている。
先日もニューヨーク・タイムズ紙のブログに、欧米のメディアから「ホムスの声」と呼ばれる23歳のスターVJ、ダニー・アブドル・ダイエムに対する攻撃の例が紹介されていた。
それによると、何者かがツイッターの偽アカウントを作ってダイエム本人に成り済まし、「宗派対立をあおるためにやっている」と思わせるつぶやきをしてダイエムの評判を落とそうとしたという。イスラエルの武力介入を画策しているように見せ掛ける書き込みもあった。
アサド政権が残虐な弾圧を続けているのは、紛れもない事実だ。VJたちに対する政権側の中傷や攻撃を真に受ける人間もほとんどいない。それでもテラウィがタイヤを燃やした一件は、ジャーナリストに深刻な問いを投げ掛ける。明らかに反体制側寄りのVJたちが作成した映像リポートを、どこまで信頼していいのか。
CNNの人気記者アンダーソン・クーパーは先日、ダイエムが映像を脚色しているという説の嘘を暴く特集を組んだ。『チャンネル4ニュース』のネビン・マブロ副編集長はこう言う。「報道機関は半年前から彼らの映像に頼ってきた。でも連中は(プロの)ジャーナリストじゃない。彼らには発信したいメッセージがあるんだ」
アメリカのNGO「ジャーナリスト保護委員会」のダニー・オブライエンは、他の情報源と同様にVJたちもある程度まで疑ってみるべきだと警告する。戦闘が長引き、「情報戦」が激化している場合は特に注意が必要だと、オブライエンは言う。
「暴力がエスカレートしているのと同じように、宣伝工作活動もエスカレートしている。その点はどちらの側も同じだ」
弾圧の恐怖を強調する映像を選別
アサド政権は強力な宣伝工作機関を持ち、ホムスなどへの外国人記者の立ち入りを阻止する力もある。この事実がVJたちを追い詰めている面もある。
ホムスで彼らに同行取材したマニの話では、実際に目撃した「演出」はタイヤを燃やした一件だけだった。それ以上に問題なのは、VJたちが見せたい映像を選んで流していることだと、マニは言う。
アサド政権が反体制派を武装した「テロリスト」と決め付けているため、VJたちは政権側との戦闘の主力になっている自由シリア軍(FSA)のメンバーを映したがらないと、マニは指摘する。マニがFSAを撮影するのも嫌がったという。
「彼らの投稿する映像が真実ではないとは言わない。でも、あの映像は選別されたものだ」と、マニは言う。