最新記事

シリア

激戦地ホムスの惨劇はどこまで「真実」か

アサド政権の過酷な弾圧を伝える映像リポートには「演出」が加えられたものも

2012年5月14日(月)14時25分
マイク・ギグリオ

ぼやけた実像 反体制派の主力である自由シリア軍(FSA)の支持者たち Reuters

 シリアの惨劇は、オマル・テラウィのような人々の手で世界に発信されている。テラウィはVJ(ビデオジャーナリスト)と呼ばれる少数の活動家グループの1人。バシャル・アサド政権が反体制派に過酷な弾圧を加えている中部の都市ホムスから、彼らは映像リポートを送り続けてきた。

 外国人記者はホムスへの立ち入りを禁止されている。何とか潜入しても命の危険にさらされる。実際、2月にはフランス出身のカメラマン、レミ・オシュリクとアメリカ人記者のマリー・コルビンが政府軍の砲撃で死亡した。

 政権側の残虐行為を撮影したテラウィらの映像リポートはYouTubeに投稿され、SNSや報道機関を通じて世界に広まる。中にはアルジャジーラやCNNのような大手メディアに何度も登場し、一種のスターのように扱われるVJもいる。

 先週、イギリスのニュース番組『チャンネル4ニュース』で彼らに焦点を当てた特集が放映された。その中でテラウィと仲間たちは、死者の人数を慌ただしく確認し、破裂する爆弾や狙撃手の銃弾をものともせず活動していた。だが同時に、彼らが映像リポートに脚色を加えていることも明らかになった。

路地でタイヤに火をつけて黒煙を演出

 この特集を撮影したフォトジャーナリストのマニは1月と2月の数週間、テラウィたちに密着して過酷な現実を記録した。マニは現在40歳。フランス出身だが、シリアの首都ダマスカスに留学経験があり、流暢なアラビア語を話す。

 VJたちはオシュリクらが命を落としたババアムル地区の「メディアセンター」前に立ち、大急ぎで顔出しリポートをまとめる。途中で仲間たちが負傷しても死んでも、ビデオ撮影を止めることはない。あるシーンでは、1人の若い活動家が首とあごに銃弾を受けるが、この若者は数日後には撮影を再開したとマニは報告する。

 この特集は彼らの「演出」も取り上げている。マニのカメラは、テラウィが仲間に向かって、自分たちが撮影している地区は現場から遠過ぎるとぼやく場面を映し出す。

「タイヤを置いて火を付けないとダメだ」と、テラウィは言う。それで戦闘中に上がる黒煙の代わりにしようというわけだ。自分たちが撮影されていることを思い出したテラウィは、マニのカメラに向かってきまり悪そうな笑いを浮かべた。

 同じ日、テラウィは屋根の上に立って撮影した。背後には煙が渦巻いている。マニのカメラがテラウィから離れ、煙が出ている路地を映すと、そこでタイヤが燃えていた。

「リポートを脚色した」と、マニは後に語っている。「彼らは現地で何が起きているかを伝えようと必死なんだ」

エスカレートする情報戦

 アサド政権は、VJたちの信用を何とか失墜させようとしてきた。脚色だという指摘が少しでもあると、待ってましたとばかりに飛び付き、残虐行為の映像は完全な捏造だと主張する。

 シリアで抗議デモが始まった直後、マラト・アウムランという「ネット活動家」は本誌に対し、ツイッターでは偽の活動家が捏造と判明した虐殺映像へのリンクをわざとツイートして、VJたちの信頼を傷つけようとしていると語っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

-日産、11日の取締役会で内田社長の退任案を協議=

ビジネス

デフレ判断指標プラス「明るい兆し」、金融政策日銀に

ビジネス

FRB、夏まで忍耐必要も 米経済に不透明感=アトラ

ワールド

トルコ、ウクライナで平和維持活動なら貢献可能=国防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中