最新記事

オーストラリア

「タバコ包装にロゴ禁止」の衝撃

4月にたばこ税を25%増税。さらに2年後には全銘柄のデザインを強制的に統一するという過激な規制案が波紋を呼んでいる

2010年5月11日(火)18時03分
マリーナ・カメネフ

警告 肺癌の生々しい写真を載せた現行のたばこ包装。新しい規制では、写真左のロゴマークや色が使えなくなる Reuters

 オーストラリアの喫煙者はますますたばこが吸いづらくなるだろう。既に厳しい規制がさらに厳しくなったからだ。

 4月29日、政府はたばこ税の25%引き上げを突然発表した。さらに、国内で販売されるたばこの包装デザインを基本的に無地に統一する世界初の計画に乗り出した。2012年7月1日までに施行予定で、ロゴマークの印刷や独自の色・文字フォントの使用を禁止する。包装にはブランド名のほか、喫煙による健康被害を示すグロテスクな写真が掲載される。

「新しいブランド規制は世界で最も厳しいもので、たばこ会社は嫌がるだろう」と、ケビン・ラッド首相は記者会見で語った。

 今回の対策はWHO(世界保健機関)も支持している。WHOによると、たばこの包装は「タフさ」といったブランドイメージを表現しており、それが人格形成途上の10代の若者を引き付けるという。

 たばこ会社はすぐに反応した。インペリアル・タバコ・オーストラリアは、ブランド認知に起きる変化に懸念を示す。「包装にロゴマークがなければ、消費者が当社のブランドを他と区別できない。ブランドの違いはわれわれにとって重要だ」と、同社の広報担当者キャッシー・キーオーは豪ABCニュースに語った。同社は法的措置も辞さない構えだ。「営利企業として死活問題であり、国際的な財産権を守るために闘う」

模倣品が増えると業界は反発

 ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・オーストラリアの広報担当者ルイーズ・ワーバートンは「たばこの銘柄を差別化する要素が価格だけになり、価格の下落を招く」と言う。模倣品の増加もつながるとワーバートンはみている。国内のたばこ産業は市場占有率の12%を既に模倣品に奪われており、年間6億豪ドル(500億円)の納税者負担になっているという。

 ニコラ・ロクソン保健・高齢化問題相はABCニュースの取材に対し、今回の法律はたばこ業界による訴訟にも耐えられるように作られることになると語った。「たばこ業界がこの行動を気に入らないからといって、われわれがひるむことはない」

 豪政府によれば、たばこを吸わないことは死や病気を避けるためにできる一番の対策だ。毎年1万5000人のオーストラリア人が喫煙習慣のために死亡している。14歳以上の喫煙率は07年時点で16・6%。政府は18年までにこれを10%に引き下げたいとしている。たばこ税によって今後4年間で50億豪ドル(約4200億円)の税収を見込んでおり、それを病院や医療制度の整備に充てる予定だ。

 環境衛生を訴える団体は喫煙規制の動きを歓迎している。「たばこ広告の最後の名残を消滅させることになる」と、オーストラリア癌協議会のイアン・オルバー会長は言う。「パッケージの色は若い新規喫煙者を引き付けるうえ、健康警告の写真の効果を薄めている」

特定ブランドへの愛着は消えるか

 オルバーによれば、たばこ税増税はこれまでも喫煙率を低下させる効果があった。「10%価格引き上げのたび国内の喫煙者は3%減る。ほとんどの喫煙者は値上げを望んでいる。たばこをやめるきっかけになるからだ」

 4月29日深夜12時にたばこの価格が2.16豪ドル(約180円)引き上げられたが、その前に喫煙者はスーパーや雑貨店に買いだめに走った。

 オーストラリアの喫煙規制は以前から厳しい。07年に屋内の喫煙が事実上禁止された。シドニーの有名なボンダイビーチは04年から禁煙。屋外の飲食エリア近くの歩道も禁煙だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中