ジョディ・フォスターが語る新作『モーリタニアン』と『羊たちの沈黙』30周年
“Terror Made Him a Better Person”
新作でフォスターはテロ容疑者の釈放を求める弁護士を演じる RICH FURY/GETTY IMAGES
<政治映画を避けてきたフォスターの新作が最高に政治的な理由>
ジョディ・フォスターは政治映画を作ったことがない。面白いと思わないからだ。だが、最新作『モーリタニアン』に出演して全てが変わった(アメリカでは2月12日から劇場公開と配信開始)。
これはモーリタニア人のモハメドゥ・ウルド・スラヒの真実の物語。彼はアルカイダの構成員と疑われ、容疑不明のまま2002~2016年にグアンタナモ米海軍基地(キューバ)のテロ容疑者収容所に拘束されていた。
フォスターが演じるのは、スラヒの釈放を求めた弁護士ナンシー・ホランダー(この役でゴールデングローブ賞助演女優賞にノミネートされた)。「イスラム教徒であるこの男性の人生と人柄を、本人の視点で描いている」から、出演する気になったというフォスターに、本誌H・アラン・スコットが話を聞いた。
――この映画が今とつながっていると思うのはなぜ?
理由はたくさんある。これはアメリカの歴史における暗黒の時期の物語。日系人の強制収容や南北戦争後のジム・クロウ法(人種隔離の一連の法律)、先住民の強制移住といったほかの暗黒時代の出来事と同じく、私たちはあの時を振り返って責任を認め、どこで感情に流され、行き過ぎてしまったのかを理解しなければならない。
私たちは不安と恐怖により、法の支配と人間性を捨て去った。モハメドゥは正反対だったのが、すごく素敵だと思う。不安と恐怖は、彼をより良い人間にした。彼の信仰と人柄、より良い人間になれる境遇などで、彼はうまく乗り切った。
あんな経験をしても、彼は壊れなかった。でも、9・11テロは私たちを壊した。
――あなたが演じた弁護士のホランダーは個性的で、時に議論を呼ぶ人物だ。
実在の人物を演じるのは難しい。その人についての世間の見方に制約を受けるから。でも彼女のことは、ほとんどの人がよく知らない。だからモハメドゥの物語が引き立つように──ナンシーもそれを望んでいた──彼女の人物像を変えることができた。
ナンシーにはこう言わなくてはならなかった。「あなたの物まねをするつもりはない。私のナンシーはあなたよりずっと意地悪い人物になる。失礼で不愛想で、自己防衛意識が高くて」。これはナンシーに当てはまらなくもないと思う。彼女の依頼人は99%が罪を犯して、ひどいことをした人もいる。だから彼女が任務を果たすには、自分の周りに壁を築かないといけない。
――今回のように政治的議論を呼びそうな作品への出演は、その点も考慮する?
私は政治映画を作ったことがない。伝記映画と同じで、作られ方が好きではないと感じることが多いからだ。誰だって生まれて、死んでいく。目新しいことは何もない。
政治映画に出演しなかったのは、映画はまず人物ありきと思っているから。今回の作品でケビン(・マクドナルド監督)が、感情に訴える映画を作ると明確にしていたのは素晴らしいと思う。
議論や裁判の場面が多いけれど、私にとってこの作品は、ムスリム男性の人生と人物像を本人の視点から描いたもの。ほかの登場人物はみんな、彼の物語のために存在している。