ガガ様の最新アルバムを全曲採点!
How Do Lady Gaga’s Chromatica Songs Rate?
アリス
楽器演奏だけの「クロマティカI」に続く最初の歌で、アリスならぬ「ガガの不思議の国」に誘う役割を果たす。もちろん、この不思議の国はダンスフロア。切れのいいハウスのリズムと、テーマにぴったりの緩いボーカルエフェクトがいい。強烈な印 象はないが、全体のイントロとしては合格。(6点)
ステューピッド・ラヴ
アルバムのリードシングル。映画『アリー』の挿入歌を除くと、ガガのシングルがチャート1位になるのは久しぶり。優れてマドンナっぽい曲で、向かうところ敵なし。時には走って逃げたくなるけれど、時には胸躍らせて戻ってきたくもなる世界だ。(7・5点)
レイン・オン・ミーwithアリアナ・グランデ
グランデがいなければ、この曲がよいと思えるかどうかは疑問。雨と涙の比喩は古くさいが、輝かしいボーカルで命を吹き込まれ、伴奏さえボーカルの興奮にのみ込まれる。古いと同時に新しくも感じられるタイムスリップ感覚だ。べテラン映画監督ロバート・ロドリゲスの手によるエモーショナルで熱のこもったビデオもお見逃しなく。(9点)
フリー・ウーマン
デビュー前の自分を回想した曲。普段はジェンダーニュートラルな彼女が曲名に「女」を付けたのは、かつてプロデューサー から受けた性暴力への抗議の気持ちからだとか。サビでは、成功するのに男の助けは要らないと力強く訴える。憂いのあるボーカルとミュージカル風のアレンジで、単なる女の応援歌とは一味違う仕上がりだ。(8点)
ファン・トゥナイト
失恋の痛みを躍動感あふれるサウンドに乗せたダンスポップナンバー。タイトルは「今夜は楽しい」だが、歌詞は「今夜はちっとも楽しくない」。ABBAとロビンを足して2で割った印象で3分弱にすっきりまとまっているが、最後の盛り上がりに欠けるのが残念。(7・5点)
911
精神的に参って抗鬱剤をもらったときの体験を歌にした。麻痺した心を思わせるロボットボイスを、華やかなシンセサウンドが
バックアップしていく展開が素晴らしい。豊かな感性を取り戻そうとする彼女の気持ちが鮮やかに伝わる。(9点)
プラスティック・ドール
何もかつての宿敵ケイティ・ぺリーがボツにしたような曲をわざわざ収録しなくても。女をバービー人形に例えるなんて陳腐過ぎる。(2点)
サワー・キャンディーwith BLACKPINK
曲自体は凡庸でも、Kポップ界最大のスター、ブラックピンクとの共演は事件。ガガのボーカルは手抜きな感じだが、ガールズグループの4人は全力投球。これはメガヒット間違いなし。(6・5点)
エニグマ
18年にスタートしたラスベガス定期公演のタイトルも「エニグマ」。公演では盛り上がりそうなガガ様らしい曲だが、ここではCMソングみたいだ。(4点)
リプレイ
恋人と自分自身に責めさいなまれる苦悩を取り上げた。表情を変えるボーカルが、不安定な心情を見事に表現している。楽しさと緊迫感が絶妙にブレンドされたユーロディスコ調。(8・5点)
サイン・フロム・アバヴwithエルトン・ジョン
音楽に救われたつらい子供時代を34歳のガガと御年73歳のジョンが心を込めて歌うとなれば、傾聴するしかない。ラストを飾るハイパーなドラムもいい。ちなみに、ガガはエルトンの子供2人の後見人だ。(7・5点)
1000ダヴズ
エルトンはいないし、リバーブはかけ過ぎだし、ラストから2曲目のせいか投げやりな印象。だいたいハト(ダヴ)は1羽か2羽で十分。(マイナス1点)
バビロン
突っ込みどころ満載。「バブル・オン(おしゃべり)」と「バビロン」の語呂合わせなんて、今どきB級詩人でもやらない。一本調子に歌うくだりは、マドンナの「ヴォーグ」をそのままパクったとしか思えない。「紀元前みたいにパーティーしよう」の一節はプリンスの「1999」へのオマージュか。とことんヘンテコで悪趣味なのに自信たっぷりなあたりが、いかにもガガ様らしくて......いい。(7点)
そういうわけで、平均すると6・3点。でも全体としては8点をあげたい。
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2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)
[2020年6月23日号掲載]