テイラー・スウィフトが脱「いい子」して宣戦布告
Miss Americana Unveils a New Swift
だがおそらく最も重要なのは、両親を含む自分のマネジメントチームに、2018年の中間選挙で地元テネシー州の民主党候補を支持すると告げるシーンだろう。チーム全員が動揺し、父は死の脅迫に備えてもう装甲車を買ってしまったぞと言いだす。
憧れていた女性カントリーバンド、ディクシー・チックスがイラク戦争をちょっと批判しただけでキャリアを損なったことを知るスウィフトは、政治から距離を置いてきた。それが人気の一因でもあった(娘の言葉を聞いた父はファンが半分になると言った)。
だがスウィフトは、セクハラ裁判を経験した。しかもこの裁判は、彼女が体を触られたと告発したDJが、逆に失職に追い込まれたと訴えてきたものだった。
この出来事が、最近の政治の空気を放っておけないと考える契機になったようだ。今はどんな人気スターであろうと、言い分を信じてもらいたければ、腕の立つ弁護士を高い金で雇わなくてはならない。
この作品には、売り込み目的の巧みな戦略だという見方もあるだろう。政治の風向きの変化を感じ取ったスウィフトが、立場を鮮明にすべきだと計算を働かせたのだ、と。
その真偽は分からないが、スウィフトの決断には大きな意味と影響力がある。彼女がカメラを意識しないはずはないのに、民主党を支持すればドナルド・トランプ大統領に目を付けられると言う広報担当に、「くそったれ!そんなこと、どうでもいい」と言い返すシーンは痛烈だ。
『ミス・アメリカーナ』は、大統領選の年に政治への関わりを強めるというスウィフトの宣言だ。アルバム『ラヴァー』の録音風景を撮った映像には、若者の政治参加をたたえる曲「オンリー・ザ・ヤング」の制作に取り組むシーンもある(この曲はエンドロールと共に流れ、映画の配信と同時にリリースされた)。
スウィフトが支持した民主党候補は敗北した。スウィフトは自分のスターとしての影響力の限界を感じ、当選した共和党女性候補が同性婚に反対し、女性に対する暴力防止法にも反対の立場を取ったことにいら立った。
だから彼女は、決意をさらに固めたようだ。最初は及び腰だったマネジメントチームのメンバーも、中間選挙での支持候補の敗北後には「次の2年で仕切り直せばいい」とスウィフトに語っている。
サンダンス映画祭のプレミア上映後に舞台挨拶に立ったスウィフトは、控えめに見えた。自ら率先して話すのではなく、ウィルソン監督を立てて、彼女の言葉に同調する程度だった。
しかし『ミス・アメリカーナ』は、さらに大きな何かが起こることを予感させる。スウィフトが作品中で言うように「口に貼られていたテープを剝がす時が来た」のだ。
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