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市原えつこが今までにない「祭り」に挑戦──気鋭のアーティストに喝を入れた1冊の本とは

2019年03月11日(月)17時20分
今井順梨


でもどんな祭りにすればいいのか悩んでいたところ、この本の中の「心の消化過程」という項を見て「ああ、こうすればいいのか」とわかって、ようやく安心できました。

その祭りを「日本人の信仰とデジタルを融合させ、今までにないもの作る」と決めたものの、どういう形にするかは、まだ未知数なのだそうだ。


どんな信仰があり、どんな伝承をされてきたかというシステムも私がすべて生み出すので、どこから手をつけようかとずっと迷っていたのですが、この本に喝を入れられた気がします。私は60分どころか30分で読めたけれど、この本は読み捨てて終わりではなくて、読むたびに発見がある。分厚くて内容の薄い本も多いけれど、薄いのに内容が詰まっている、尊い本だと思います。

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Newsweek Japan

農耕民族の「稲作バイブス」が、創作の原点

市原さんが小学校1年生まで育った愛知県には、踊りの囃子方が歌に合わせてところ構わず"うじ虫"のように寝転がる「うなごうじ祭」(豊川市)や、檜の大男茎形(男性の性器)を奉製して繁栄を願う「豊年祭」(小牧市の田縣神社)など、一風変わった祭りが多い。これらを直接見た記憶はないものの、発想のベースになっていると語った。


性器を信仰して豊穣を願うような祭りは、物心がついてから直接見た記憶はなかったんです。でも大学生の時に、裸の桃太郎像がある桃太郎神社(愛知県犬山市)に行ったら、「懐かしい!」と思ってしまって。後で聞いたら、子どもの頃に行ったことがあるそうです。


私は母方の家系が農家だったせいか、農耕民族の稲作バイブスが自分にも根付いている気がしていて。だからなのか豊穣を祝う奇祭や民間信仰、性に神聖さを感じる日本人のメンタリティを面白いなと親和性を感じていて。そういった要素を具現化する作品を作りたいという気持ちが、ずっとありました。日本的な要素を意識して育った覚えはないし、エスタブリッシュされた古典芸能のようなものにはさほど興味がないのですが、名もなき民間風習に惹かれるんです。やっぱり、稲作バイブスなのかもしれない(笑)。

そこで生まれたのが、大学の卒業制作としてつくった『セクハラ・インターフェース』(2012年)だった。これは大根をさすると喘ぎ声をあげるという前代未聞の代物だったが、大いに話題になった。もともと日本人は大根を女性の脚に見立ててきたこともあり、「......アリだよね」という気持ちが共有できたのだろう。

しかしやはり性をテーマにした、ペッパーに乳首を搭載したアプリ『ペッパイちゃん』(2015年)は大炎上した。だがこの時、あることに気づいたという。


発売される1年ぐらい前からペッパーのアプリ開発をしていたので、自分にとってペッパーは、いわば部品の塊でしかなかったんです。でも色々な人がペッパーを人間の代替として自己を投影したり、感情移入したりしていたことを実感し、それがとても衝撃的でした。それまでは設定した通りに動く、デジタルデバイスの延長としか考えていなかったところがありました。


でもロボットは人間にとって仲間というか、人格を持ったものなんだという考え方に触れたことで、私もかなり変わりました。思えば日本人は、呪いの藁人形のような人間の形をしたものに生命や人格を感じてきたのだから、人型のロボットが家庭に来るのであれば、感情移入できるものを作れないかと考えるようになって。そこから『デジタルシャーマン・プロジェクト』のアイデアに繋がっていったんです。ただロボットに魂が宿るという発想は日本ならではのもののようで、海外の人からは気味悪がられるというか、特にキリスト教圏だとネガティブな捉え方をする人が結構多くて。そういった反応の違いも面白くて、だからやっているというところはありますね。

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