世界中の90%以上を生産...「半導体の盾」TSMCは台湾を守れるのか? むしろ中国を駆り立てるのか?

CHOKE POINT FOR CHINA

2025年2月13日(木)14時38分
ケリー・ブラウン(英キングズ・カレッジ・ロンドン中国研究所所長)

サプライチェーンも同じくらい驚異的だ。TSMCは業界最高水準の製品の主要な供給源かもしれないが、そのTSMCも、半導体の製造に用いる最先端のレーザー1基だけで45万7329個の部品を必要とするエコシステムに依存している。

中国は膨大な研究開発資金をつぎ込んでいるが、台湾に10年以上、後れを取っている。蜃気楼を永遠に追いかけているかのように、目標は永遠に遠ざかっていく。


半導体をめぐる現状が台湾の安全保障をどこまで保証するかという点は見解が分かれる。半導体に関しては、今の台湾は中国にとってなくてはならない存在だという見方もある。

一方で、中国が自分たちの領土と見なしている土地にこれほど価値が高くて重要な技術が存在するという事実を考えたとき、「TSMCの地位は、中国に台湾を欲しいとよりいっそう思わせる」と、台湾のシンクタンク、中央研究院の政治学者である呉介民(ウー・チエミン)は述べている。

台湾当局は「シリコンシールド(半導体の盾)」が自分たちを守っていると主張するが、台湾の安全と安全保障が絶対的に保証されると考えるのは無謀だ。

中国が台湾を攻撃すれば、中国だけでなく他の国々の供給源も破壊することになる。そこに勝者はいないが、少なくとも中国にとって、自分たちのライバルを利することはない。

TSMCの存在は、既に複雑な状況をさらに複雑にする。外国政府や国際機関のシナリオプランニングは、中国と台湾が衝突した際の軍事的および地政学的影響だけでなく、この極めて重要な部品の供給が途絶えるだけで世界経済に甚大な被害をもたらすという、絶対的な確実性も考慮しなければならない。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税巡る市場の懸念後退 猶予期間設定で発動

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中